昔、福岡県のある村に水車小屋があって、じい様とばあ様が暮らしておった。
じい様は近くの田畑を耕し、ばあ様は水車小屋を使って、コメや麦を精米する人たちの相手をして暮らしておった。ばあ様はお春と言って60歳になるが、「若い」と言われるとうれしくなり、気前がよくなってしまう。
水車小屋を借りに来た人たちは、そのお礼として精米された米や麦を少し置いておくことになっているのだが、「若い」と持ち上げられるとお春ばあさんはお礼を受け取らないどころか、じい様が作った野菜までも分け与えてしまうのであった。それでじい様はよく、お春ばあさんを諭していた。
ある日、この村に柿売りがやって来た。柿売りはまず、お春ばあさんの水車小屋に柿を買ってほしいとやって来た。お春ばあさんはいつもの通りに「自分がいくつに見えるか」と、柿売りに問いかけた。正直な柿売りは見たまま「60歳くらいに見える」と答えた。
それを聞いたお春ばあさんは怒り出し、「柿など買ってやるか!」と、柿売りを追い出してしまった。 お春ばあさんの水車小屋から逃げてきた柿売りは、キノコを採った帰りで休んでいるばあ様にあった。そこでそのばあ様に「お春ばあさんは、若いとほめられると気前がよくなる」ということを教えてもらった。
柿売りは再度、お春ばあさんの水車小屋に向かった。そしてお春ばあさんに対して、「19か20か21に見える!」と言った。お春ばあさんは「そんなに若く言われたことはない」とすっかり上機嫌になり、柿を全部買ってしまい、へそくりの小判まで柿売りに渡してしまった。
その日の夕方、じい様が畑仕事から帰ってくると、水車小屋は柿でいっぱいになっていた。それでもお春ばあさんは「今日は19か20か21に見えると言われた」と、上機嫌であった。それを聞いたじい様は「19に20を足してみろ。39になる。さらにそれに21を足してみろ。60になる!」と言った。やっぱりお春ばあさんは60歳にしか見えないのであった。
(投稿者:カケス 投稿日時 2014/2/11 19:50)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 加来宣幸(未来社刊)より |
出典詳細 | 福岡の民話 第一集(日本の民話30),加来宣幸,未来社,1960年11月30日,原題「若いのが好きな婆さま」,採録地「三池郡」,話者「倉吉政幸」 |
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