種子島では、酒をお燗する時に使う土瓶を「チョカ」と呼び、このチョカを粗末に扱ったり、使い古したチョカを捨てると「ちょかめん」と言う妖怪になると言う伝承があった。
そんな種子島のとある村に、じろうざと言う名前の魚売りが住んでいた。じろうざは女房と子供と3人で、貧しいながらも心安らかに暮らしていた。このじろうざ、大の酒好きでもあった。
ある時、峠を越えた漁村に魚を仕入れに行った帰り、山の中で雨に降り込められたじろうざは峠の岩穴に雨宿りに潜り込んだ。焚き火を起こし、持参した酒を古い チョカに入れて暖めて飲みながら雨の止むのを待っていたが、雨は中々止まず、苛々したじろうざはチョカを打ち捨てたまま、焚き火を消して雨の中の歩き始め た。
ところが、道を進むに従って何とも嫌な思いがして振り返ると、捨てた筈のチョカがひとりでころころと転がりながらついて来るのであった。やがてチョカはじろうざを追い越し、尚もころころ転がりながら道を進み始めた。そしてじろうざの足はひとりでに動き出し、チョカの後を追うように歩き 始めた。
じろうざが恐ろしい気持ちでチョカについて歩く内、チョカは道端の笹藪に飛び込んで見えなくなった。じろうざが笹藪を覗きこむと そこには池があり、さっきのチョカが水面をばしゃばしゃと跳ねている。と、水が血のように真っ赤に染まり、無数の得体の知れない化け物が姿を現わした。
「ちょかめんだ!」じろうざはすっかり恐ろしくなり、チョカに「勘弁してくれ!」と大声で詫びた。するとちょかめん達は皆、古びたチョカに姿を変えて谷底に落ちて行った。落ちたチョカの砕け散る音は、山中に大きくこだました。
こんな出来事があってから、種子島の人々はチョカを大切に扱い、止むを得ず捨てる時は供養の言葉と共に土中に埋めて始末するようになった。そしてそれ以来、種子島でちょかめんの姿を見た者はないそうな。
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2013-2-5 14:05)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 下野敏見(未来社刊)より |
出典詳細 | 種子島の民話 第一集(日本の民話33),下野敏見,未来社,1962年08月31日,原題「ちょかめん」,採録地「南種子町島間」,話者「池亀春喜」,熊毛文学より |
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