大宰府の後ろ側に宝満山と言う山があって、そこにものぐさな化けタヌキが住んでいた。このタヌキは、化ける事に関しては天下一品で、何度も付近の村人を騙しては悔しがらせていた。
ある日、タヌキがお地蔵さまに化けて村人を待ちかまえていると、緑色の服を着てほっかむりをした小さな者が近付いてきた。見慣れぬ姿にタヌキが驚いて「お前は何者だ!」と問い詰めると、「俺は田んぼの田の坊と言う者だ。お前と化け比べしに来たんだ」と答えた。
タヌキは様々な姿に化けて見せたが、田の坊は驚く様子も見せなかった。そして、田の坊に宝満山の頂上に連れて行かれた。宝満山の頂上からは、ふもとの平地がレンゲの花に包まれ、美しく紅色に輝いているのが見えた。田の坊はタヌキに「俺の術は何日も時間をかけてゆっくりと化けるものだ。明日の朝、同じようにこの場所に来てあの地面を見るといい」と言い残して帰って行った。
翌日タヌキが同じ場所に来てみると、目の前でレンゲの花が刈り取られ、タヌキが見ている前でどんどん土の色に変わって行った。その3日後に同じ場所に来てみると、耕された平地に悉く水が引かれ、空の雲を映している様子が見えた。その翌日、タヌキが朝から平地を睨んでいると、水が張られた平地が今度はどんどん緑色に染まって行くのが見えた。
タヌキは「田の坊は、平地を化かしよる。あんな恐ろしい奴にもう二度と会いたくない」と言い残して、宝満山から逃げてしまった。
逃げるタヌキを見た田の坊(ふもとの村の知恵者のおばあさん)は、ほっかむりを外して笑った。因みに、タヌキが見ていた「地面が化ける」光景は、村人が田んぼを耕し、水を張って、稲を植える光景を術だと偽って見せたものであったそうな。
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2012-10-31 11:06
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 福岡のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 福岡のむかし話(各県のむかし話),福岡県民話研究会,日本標準,1973年02月10日,原題「宝満山のタヌキ」,文「池田義朗」 |
場所について | 宝満山周辺(地図は適当) |
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