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羅生門の鬼(らしょうもんのおに)

放送回No.0087(0053-A)
放送日1976年10月09日(昭和51年10月09日)
出典(表記なし)
クレジット演出:前田庸生 文芸:沖島勲 美術:三輪孝輝 作画:三輪孝輝
ナレーション市原悦子

あらすじ

今から千年以上昔、京の都に伝わる恐ろしい鬼の話。
酒天童子の話を知っておろう。
大江山という山に立てこもり、表に出ては散々悪いことを重ねた鬼だ。
この酒天童子を征伐したのがあの有名な頼光の家来、四天王の面々だった。
渡辺綱(わたなべのつな)、卜部季武(うらべのすえたけ)、碓井貞光(うすいのさだみつ)、坂田金時(さかたのきんとき)、いずれ劣らぬ豪胆無比の面々だったが、この四人が山伏(やまぶし)姿に身を変えて大江山に立てこもる酒天童子を見事征伐したのは有名な話だった。
ある日のこと、この四人が一堂に集まって酒を飲んでいた。
蒸し暑い夏の夜のことだった。
話はいつしか最近頻繁に現れるという羅生門の鬼についてのことだった。
その頃京の都では、羅生門という所に又々恐ろしい鬼が現れ悪行の限りを尽くしているというもっぱらの噂だった。
「皆さんどう思われる。」大将格の貞光が口をきった。
「うーん、それは有り得ることじゃ。」季武と金時はそう言って頷(うなず)いたが、一人最も年の若い渡辺綱だけは異論をなして反対したそうだ。
「そんなことがあってたまるものか、だって鬼は大江山で退治したじゃありませんか」
「じゃが取り逃したということもあるかもしれん。」と貞光。
話は散々に分かれたが、それならいっそ今から羅生門に行って確かめたらどうだ、ということになった。
そうしてその代表に渡辺綱が選ばれた。
立ち上がった綱に仲間たちがこう言ったそうだ。
「いいか綱よ、本当に羅生門へ行ったかどうか証拠になる高札(こうさつ)を立ててこい。」
外はいつの間にか生温かい雨が降っていた。
綱はポッコリポッコリ馬に乗って出掛けた。
別に怖くも何ともない。
そのうち羅生門が見えてきた。
綱は羅生門に近づくと、しばらく楼(ろう)を見上げていた。
羅生門はさすがに黒々とそびえ立って気味悪く、柱の合間合間に見える景色も恐ろしげだったがそれでも確かに誰もいなかった。
「ふん、誰もおらんじゃないか、皆噂を聞いてビクビクしているだけじゃないか。」
綱は鼻先でそう笑うと、約束の高札に高い音立てて羅生門の門前に打ち立てた。
渡辺綱、約束の儀によりて羅生門門前にて参上す。
さて、こうして綱が再び戻ろうとした時のことだった。
綱はふと、誰やら人の気配を感じて後ろを振り向いた。
すると柱の暗い影から一人の若い娘が立っておった。
「はて、こんな夜更けに若い女がどこへ行くのじゃ。」
綱は不思議に思って聞いてみた。
「はい、わたくしはこれから五条の父の所へ戻らねばなりませぬ。」
「でも、雨は降るわ、道は抜かるわで困っているのでございます。」
「ほほう、五条なら私の帰る方角と同じじゃ。」
「ささ、それなら一緒にに乗って行かれるがよかろう。」
そう言って綱が若い娘に手を差し伸べた時のことだった。
突然若い娘は鬼の姿に変化(へんげ)したのかと思えば、綱の後ろに回ってものすごい力で綱の首を絞めつけた。
そしてあっという間に空中高く舞い上がった。
「ええいおのれ、貴様が羅生門の鬼であったか。」
「ええい!!」
「ぎゃあああああああ。」
綱は一瞬の隙を突いて鬼の腕を切り取った。
「綱よ覚えておれ、その腕七日の間に必ず取り戻しに行くからな。」
鬼はそう叫ぶと空高く舞い上がっていった。
ところで、鬼の腕はというたらそれはもう凄い腕だった。
鋼の様なゴツゴツした太い腕に針の様な毛が一面に生えていた。
「ほほう、これは凄い、綱、お主よくぞやったぞ。」仲間たちはそう言って褒めてくれた。
だが綱はこの腕を七日の間鬼から守らねばならなかった。
綱は七日の間警護を厳重にし、表に物忌みの札を貼って家に閉じ籠った。
鬼の腕は頑丈な木の箱に入れてこれを仕舞い、綱自身が四六時中これを見守った。
そうして、七日間というもの無事何事もなく過ぎようとしていた。
七日目の夜のことだった。
その夜は美しい月も昇り爽やかな夜だったが、一人の老婆が綱の門前を訪ねた。
家来たちはお婆さんに聞くと、お婆さんは綱の叔母に当たる人で遥々浪速(なにわ)から綱を訪ねに来たのだと言う。
家来たちは一旦は断ったが、「今夜会わねばいつ会えるともしれぬ身、どうかお願いですじゃ。」
こうしてとうとう老婆は綱の屋敷の中へ入ってしまった。
「綱や、覚えておいでかい、叔母さんじゃよ、お前を子供の頃母親代わりに育て上げた浪速の叔母さんじゃよ。」
「叔母さん?」と綱。
「そうじゃとも、ところでどうしたのじゃ、物忌みの札など貼って何か悪いことでもあったのかい。」
「いえ、別に。」
綱は叔母さんのことは中々思い出せませんでしたが問われるままにそれでも例の羅生門の鬼のことをお婆さんに話して聞かせました。
お婆さんは大層喜んで「そうかいそうかい、たとえ育ての子とはいえそのような手柄を立ててくれたとはのう。」
「ところでのう綱や、その鬼の腕とやらひと目だけ叔母さんにも見せてはくれんかのう。」
さすがに綱もそのことだけは断った。
明日ならまだしも今夜はまだ。
「わたしは今夜中にはどうしても浪速に帰らねばならんのじゃよ。」
こう言われてさすがの綱もとうとう心が緩んでしまった。
それならばちょっとだけと。
「叔母さん、これがその鬼の腕です。」
「ほうほう、ほうほう、何とも凄い腕じゃのう、どれどれちょっとこの手に触らせておくれ。」
こうして老婆に鬼の腕を差し出した時のことじゃった。
何とも恐ろしいことに優しい老婆の顔はみるみるうちに変化してあの恐ろしい羅生門の鬼の顔へと変わった。
「はっ、おのれ、貴様。」
「ははははははははは。」
「綱よ、よいか、七日目の夜しかとこの腕貰ったぞ、ぎゃはははははははは。」
「おのれ、はかりおったな。」
「ぎゃはははははははは。」
綱が刀を抜くのも間に合わず、鬼は空中高く舞い上がった。
「ぎゃはははははははは。」
そうして鬼はしっかと自分の腕を握ったまま、凄まじい音と稲光を残して雲の上高く消えていった。
約束通り自分の腕を取り戻したのだった。

(投稿者: 龍虎 投稿日時 2011-8-15 2:31 )


地図:羅城門跡(らじょうもんあと)

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