昔、ある山奥に一人の働き者の若者が住んでいました。この若者の畑には「水止めの桃」と呼ばれる、桃の大木が立っていました。この桃の木の実を食べると「大水が出る」という言い伝えがありました。
この近くに、若者に思いを寄せる一人の娘がいました。ある時、水浴びをしている男の着物を取り上げて、着物の返還するかわりに結婚を迫りました。若者はしぶしぶ結婚を承諾して、二人で暮らし始めましたが、やがて若者もこの娘が好きになりました。
二人仲良く暮らしていたある時、嵐がやってきました。若者は桃の木の事が心配になり、娘を家に残し、一人で嵐の中を出掛けて行きました。嵐も通り過ぎた翌朝、娘は桃の木の下で倒れている若者を見つけ、家に連れて帰って介抱しました。
その日、娘は一人で畑にいきました。畑仕事に精を出しているうちに、のどが渇いてきた娘は、あれほど禁止されていた桃の実をもいで食べてしまいました。
この事を知った若者は、大慌てで娘に詰め寄りましたが、娘は「大水など出るわけがない」と気にする様子もありませんでした。さらに娘はもう一つ桃をもいで、若者にも食べるようにすすめました。
若者が娘から手渡された桃を食べると、山奥から大水が噴出しました。大水はどんどんあふれてきて、あっという間に若者も娘も家もすべて押し流してしまいました。水が引いた後の荒れ果てた土地には、桃の木だけが残っていました。
(紅子 2013-10-6 23:59)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 小汀松之進(未来社刊)より |
出典詳細 | 出雲の民話(日本の民話12),石塚尊俊、岡義重、小汀松之進,未来社,1958年09月15日,原題「桃をとった罰」,原話「仁多郡誌」 |
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