昔、兵庫の西宮はお酒作りの盛んなところだった。今津の浜には大きな酒蔵が並び、そこには、蔵元の旦那衆と囲碁の相手をする上品なおじいさんがいた。「名前は?」と、たずねると桜の翁。「好きなものは?」と、たずねると何よりもお酒が好きだという。
いつも村の寄り合いで、碁の相手をした帰りに下男にお酒をひょうたんに入れてもらって帰っていた。みんなに好かれているからどこに 帰るのかも気にされていなかった。
そんなある日、碁の相手をした帰りにお酒を汲んでもらっていると、「この匂いは」と翁が尋ねる。樽の後ろを見るとねずみ取りに油 揚げがついていた。桜の翁は、油揚げを見つけた瞬間目が開き、よだれをたらし油揚げに手を差し出した。
すると、ねずみ取りに手を挟まれ「ぎゃぁぁぁぁ」と 叫んで翁は酒蔵から出て逃げようとした。ところが、門の所に行ったら犬がいたので門を閉めてほかの酒蔵の方へ走って行く。それを見ていた下男達がそこへ行くと、桜の翁の姿 はそこにはなく、一つの酒樽からぶくぶくと泡の音がしていた。
次の日に、下男がその酒蔵を見回りをしていると、酒樽の中に大きな狐が浮かんでいた。蔵元の旦那衆は、近くの桜の木の下に祠を作り、この狐を手厚く葬ってやった。そして、この祠に酒をお供えするようになったと言うことだ。
(投稿者: KK 投稿日時 2012-8-23 14:34)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 宮崎修二朗(未来社刊)より |
出典詳細 | 兵庫の民話(日本の民話25),宮崎修二朗、徳山静子,未来社,1960年01月31日,原題「桜翁」,採録地「西宮市」,採集「浅田柳一」 |
場所について | 桜翁稲荷大明神(浄願寺の隣) |
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