昔々、ある村にお爺さんとお婆さんが住んでおった。この老夫婦には、1人の気立てのよい娘っ子がいて、年老いた両親の世話をよくしていた。この娘、働き者の孝行娘であったが、1つだけ困ったことがあった。それは、普通の人の2倍も3倍も体が大きかったのだ。
この娘、さらに大変な力持ちで、ある時言うことを聞かなくなった暴れ馬が道を突進してくると、なんとその馬を両手で高々と持ち上げてしまい、馬をおとなしくさせてしまったのだ。そんな訳で、村の子供たちからは毎日のように「鬼娘、鬼娘」と囃し立てられ、からかわれていた。
そんなある日、娘が山に薪を取りに行った帰り道のこと。1人の村の若者が、薪を背負ったまま道端に腰を下ろしていた。若者は、薪を拾いすぎて歩けなくなってしまったと言うのだ。それを聞いた娘は、薪を背負ったままの若者をヒョイと自分の肩に乗せると、そのまま山道を降りて行った。
村の中で娘のことを馬鹿にしないのは、この若者だけであった。山道を下る途中、若者は、娘に自分のところに嫁に来てくれるように頼んだ。ところが娘は、「オラ、嫁になんか行かねえ!!こうして働いている方が性にあってるだ!!」といって、この話を断ってしまう。
娘は、実は若者のことが好きだったのだが、もし自分と夫婦になれば、若者は村の衆から鬼娘の亭主と馬鹿にされると思い、それが可愛そうで嫁入りの話を断ったのだ。
そうは言っても、やはり若者のことは頭から離れない。娘は次の日、物思いにふけりながら道を歩いていた。すると娘は知らない間に山の奥深くにまで入り込んでいた。そこは、娘が一度も来たこともない場所で、娘の目の前には深い淵が広がっていた。
するとその時、どこからか娘を呼ぶ声がする。声は、淵の反対側の松と杉と檜(ひのき)から聞こえてくるようだった。不思議な声は言う。「これ娘や、我の影に向かって飛び込め。お前は心の優しい感心な娘じゃ。我の影に向かって飛び込め。」
淵は深そうだったが、娘はこの声の言うとおり、水面に映る木々の影に飛び込んでみることにした。すると淵の水を浴びた娘は、不思議なほど心が素直になり、若者の申し出を受け入れて、若者の嫁になったそうだ。そして2人は子宝にも恵まれ、以後幸せに暮らしたそうな。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-11-26 11:49)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 斎藤正(未来社刊)より |
出典詳細 | 津軽の民話(日本の民話07),斉藤正,未来社,1958年05月15日,原題「鬼娘」,採録地「弘前市石川町字大沢」,話者「桜庭もと」 |
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