放送回 | No.0797(0501-A) |
放送日 | 1985年06月22日(昭和60年06月22日) |
出典 | 比江島重孝(未来社刊)より |
クレジット | 演出:三善和彦 文芸:沖島勲 美術:長尾仁 作画:三善和彦 |
ナレーション | 常田富士男 |
むかしむかし、ある山の麓に小さな茶屋があった。ある日そこに一人の坊主がやって来て、茶屋の女将に、団子を食わせてくれたら代金の代わりに絵を描いてあげようと言うた。女将が試しに描かせてみると、坊主は草履の裏に墨を塗り、店先の衝立にさらさらっとカラスの絵を描いたそうな。
女将はカラスの絵なんぞ縁起が悪いと怒って、何も食わせずに坊主を追い払った。他の客がこの絵を見て「このカラス、動いとる。」と騒いだが、女将はろくに確かめもせず、さっさと衝立に布をかぶせてしもうたそうじゃ。
ところで、この茶屋から少し峠を登った所にもう一軒茶屋があった。坊主はこの茶屋にもやって来て、団子を食い、女将に代金の代わりに絵を描いてあげようと言って、店先の衝立にエビの絵を描いた。
そうして坊主はさっさとどこかへ行ってしもうたが、ここでも他の客が「このエビ、動いとる。」と言い始めた。そうして、生きているように動くエビの絵の噂が広がって、見物人が大勢おしかけ、この茶屋は大繁盛したそうな。
しばらくして、坊主はまたこの茶屋にやって来た。欲に目がくらんだ女将はもっと儲けてやろうと「エビを縁起の良い赤色に塗り替えてほしい。」と坊主に頼んだ。すると、坊主はさっさとエビを赤く塗って去って行った。
ところが、赤くなったエビはもう二度と尻尾も髭も動かんかった。赤く茹でられたエビはもう動かんのじゃ。あっという間に客はいなくなり、たちまち茶屋は元のただの茶屋に戻ってしもうたという。
この坊主は、麓の茶屋にももう一度やって来た。ここの女将は坊主に、縁起の悪い黒いカラスの絵を消すように頼んだそうじゃ。すると坊主は扇子でカラスの絵をパタパタと煽ぎ始めた。すると、カラスはカアと一声鳴くと、絵の中から飛び出してどこかへ行ってしもうたそうな。女将は茫然とそれを見守るだけじゃった。
まあ、あんまり不足は言わんことじゃなあ。
(投稿者:ニャコディ 投稿日時 2014/12/15 12:36)