昔、和歌山に珊瑚寺(さんごじ)というお寺がありました。
一ヶ月ほど前から、このお寺に「またじろ」という狸が住み着いていました。またじろという名前とは違い、実際はメス狸で妊娠していました。和尚さんや小僧さんや村人たちは、またじろの子供が生まれる日を楽しみにしていました。
今年の冬はとても寒く、たまじろはワラ束を敷いて暖をとっていました。しかし、ある時またじろが居なくなってしまい、和尚さんたちは心配で心配で仕方ありませんでした。
そんなある日の事、京の呉服屋から「産着の代金を集金にきました」とやってきました。和尚さんは「もしかして、またじろがツケで呉服屋から産着を買ったのかもしれない」と、思いました。
やがて京から帰って来たまたじろは、元気な3匹の仔狸を生みました。和尚さんは、可愛い赤ん坊が生まれてきた事を喜びながら、またじろに団子を差し入れしました。その時に「ウッホン、今度人を騙したらお寺から出て行ってもらうぞ」と言いました。
翌朝、またじろと仔狸はお寺の床下からいなくなりました。和尚さんは「まさか本気にして出て行ってしまうなんて」と、またじろに言った事を後悔しました。和尚さんたちの心に、ぽっかりと穴が開いたようでした。
しばらくたった頃、「またじろと仔狸たちは山の中で元気にしていた」と、ある村人から聞きました。和尚さんたちは心の底から喜びました。
それからしばらく経った秋のお彼岸の頃。寺の山門の前に、沢山の山の幸が置いてありました。きっと、またじろが持ってきてくれんだろうと、和尚さんは嬉しくなりました。それからも毎年、秋のお彼岸になると沢山の山の幸が届けられたそうです。
(紅子 2013-9-5 0:04)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 和歌山県 |
場所について | 珊瑚寺(さんごじ) |
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