昔、富山の朝日町に「おせん」という、7歳のみなしごの娘がいました。おせんは歌が好きな娘で、おせんが透き通った声で歌えば、村人たちは仕事の手を休めて聞き惚れました。
おせんは、よその家の子守をしてその日その日をつないで暮らしていました。幼いおせんのたった一つの願いは、赤いお椀に真っ白なご飯をよそってお腹いっぱい食べる事でした。親もない子守娘のおせんには、とうてい叶うはずのない夢でした。
ある日、おせんは子守の手伝いをしている家の婆さまと一緒に、山へ山菜摘みに出かけました。その途中、草むらに赤いお椀が一つ置いてあるのを見つけました。おせんは、そのお椀が欲しくて欲しくてたまりませんでしたが、婆さまから「山で得体のしれないものを拾ってはいけない」とたしなめられて、グッと我慢しました。
山で山菜を摘んでの帰り道、やっぱり元の場所に赤いお椀が置いてありました。おせんは諦めきれず、赤いお椀を拾い上げました。すると、何とも怪しい風が吹き、風の中から不思議な声が聞こえてきました。
おせんは風の声に導かれるように、谷に向かって駆け出しました。谷に到着したおせんが、いつもはない丸木橋を渡り始めると、橋はぐらりと揺らぎみるみる大蛇に姿を変えました。
大蛇は、優しくおせんを咥えて、静かに谷の淵の底へと沈んでいきました。婆さまが淵に向かっておせんの名を呼びましたが、おせんは二度と浮かび上がってくることはありませんでした。
おせんの落ちたこの淵を「おせん落としの谷」と呼ばれるそうです。
(紅子 2013-9-13 0:49)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 富山の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 富山の伝説(日本の伝説24),辺見じゅん,角川書店,1977年11年10日,原題「赤い椀」蛇に魅入られた娘 |
場所について | おせん落としの谷(地図は適当) |
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