昔ある村に、少し頭が足りない与之助(よのすけ)という男と、その嫁がいた。この嫁さんは村一番の美人で実家は金持ちだったが、おおらかで働き者の与之助の人柄に惚れてしまい、押しかけ女房になっていた。
ある春の日、子供が産まれた事を報告するため、与之助が初めて嫁の実家に行くことになった。嫁は与之助を心配して、「私の実家の床の間には節穴があいてるから、”そこに掛け軸を掛けたら穴が隠れて良かんべ”と言いように」と、知恵をつけてあげた。
実家に到着した与之助がお座敷に通されると、嫁から聞いてきた台詞を忘れないうちにと早々に口にした。気の利いた挨拶をした与之助に、父親はすっかり気を良くして自慢の馬を褒めてもらおうと与之助を馬小屋へ連れて行った。与之助は馬の尻を指さしながら「尻に掛け軸をかけたら尻の穴が見えなくなって良かんべ」と、無邪気に褒めた。
父親は与之助のバカさ加減にあきれたが、与之助が持ってきたボタモチを食べながら娘からの手紙を読んでいるうちに、「あれなりに正直者でよい婿かもしれない」と思い直した。その後、父親も与之助もお互いの家をいったりきたりするようになり、仲良く暮らしたという事だ。
(紅子 2011-11-9 0:31)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 栃木県の民話(偕成社刊)より |
出典詳細 | 栃木県の民話(ふるさとの民話22),日本児童文学者協会,偕成社,1980年12月,原題「馬のしりにかけじく」,再話「黒川常幸」 |
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