昔々、ある所に年頃の娘を抱えた長者どんがおった。長者どんは、かわいい娘の事を思って、ええ婿どんを・・・と、いつもその事ばかり考えておった。
こんな話はすぐ広がるもので、多くの若者達が婿候補を名乗り出て、長者の屋敷へ向かうのだが、一晩長者の家に泊まった者は、なぜか皆慌てて長者の屋敷から逃げ出してしまうのだった。
ところで、その村には肝っ玉のすわった母親と、意気地なしの息子が住んでおった。母は、早速息子に長者の屋敷へ行って来るよう命じる。長者の屋敷に着いた息子は、あいさつもそこそこに、娘が寝ている座敷へと通された。息子は戸惑いつつも、その日は娘の隣で眠ることにした。
その夜の事。若者がふと目を覚ますと、隣で寝ていた娘が布団から這い出てどこかへ行ってしまった。若者は恐ろしかったが、勇気を出して娘の後についていくと、なんと墓場へ歩いていくではないか。娘はある墓の前で立ち止まり、墓をあばいて人の手足と思われるものをムシャムシャと食べ始めたのである。
翌日。若者は恐る恐る、昨夜見た出来事の一部始終を長者に話して聞かせた。すると長者どんは驚きもせずニコニコと笑いながら、その死人の手足というものはこういうものではなかったですかの?と、人の腕の様なものを取り出して見せた。
長者どんは、なかなかうまいものだから食ってみろなどと言う。よく見ると、それは人の手の形をしたお菓子であった。昨夜、長者の娘が食べていたのはお菓子だったのである。一人娘に肝のすわった婿を取らせようと考えた長者は、こんな手の込んだ「肝試し」をし、娘に相応しい男を探していたのだった。
こうして長者どんに気に入られた若者は、めでたく長者の跡取り婿になり、気弱な息子の将来を気にかけていた母親も、これで一安心したという事だ。
(投稿者: パンチョ 投稿日時 2012-7-26 1:05)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 京都府の民話(偕成社刊)より |
出典詳細 | 京都府の民話(ふるさとの民話47),日本児童文学者協会,偕成社,1983年9月,原題「むこのきもだめし」,採録地「与謝郡伊根町」,再話「上野瞭」 |
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