昔ある所に、とても人使いの荒い五郎兵衛という長者がいました。使用人たちを朝から晩まで働かせ続け、病気や年を取って働けなくなった使用人につらくあたりました。
こんな五郎兵衛の家から、使用人たちはどんどん逃げ出し、とうとう誰もいなくなってしまいました。やがて五郎兵衛は財産を使い果たし、家財も売り払い、家の中はすっからかんになってしまいました。
そこで五郎兵衛は、最後に残っていた先祖代々から伝わっていた古びた鉢を、親切な源右衛門長者に米五俵で買ってもらいました。何のへんてつもない鉢でしたが、内側に鯉の絵が描かれていました。
源右衛門が、試しに鉢に水を入れてみると、不思議なことに絵の鯉が本当の鯉に変化し泳ぎはじめました。源右衛門は「これはとんでもないお宝だ」と驚いて、さっそくこの鉢を五郎兵衛に返すことにしました。
しかし、五郎兵衛の家で鉢に水を入れても、絵の鯉は泳ぐことはありませんでした。親切で心が広く優しい源右衛門の家でだけ、鯉は泳ぎ出すのでした。
この事から、五郎兵衛はすっかり心を入れ替えて反省し、人を思いやる気持ちを大切にすることを誓いました。そして家を再興するまで、この鉢を源右衛門に預かってもらうことにしました。その後、五郎兵衛は日々真面目に働き、たまに源右衛門の家を訪れては、一緒に鉢の鯉を見て自分を戒めたということです。
(紅子 2013-11-3 0:47)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 若狭・越前の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 若狭・越前の伝説(日本の伝説46),花岡大学,角川書店,1980年5年20日,原題「鉢の鯉」 |
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