昔四国の松尾あたりにせどさくという腕のいい猟師がいた。
ある日いつものように犬のシロと猟に出掛け、沢でひと休みしていると、沢の向こうに大きな猪がいた。立派な猪だったのでせどさくはしとめてやろうと、シロに反対側へ回りこんでこちらへ誘いこむよう指示した。
が、なぜかシロは気乗りしない様子。豪をにやしたせどさくはその場で弓を引き猪に放った。
すると矢は猪に命中したが、何と頭に当たって跳ね返り、猪はそのまま逃げていった。シロが拾って来た矢尻を見てせどさくは驚いた。矢尻には油がべっとりとついている。この猪は大変歳を経て身体が樹のヤニで固められており、それで矢が通らなかったのだ。せどさくはますますこの猪をしとめたくなり、また追っていった。
正面からはしとめられないと知ったせどさくは、丘の上から猪の尻めがけて矢を放った。しかし矢を放つ寸前、シロが突然猪に向かって吠え、それに気付いた猪は矢をかわしまた逃げてしまった。せどさくはこんな時に吠えるやつがあるかとシロを叱りつけたが、シロはそのままどこかへ行ってしまった。シロの行動を不審に思いながらも、せどさくは猪を追い掛けた。
すると猪はせどさくが来るのを予想していたのか真正面に頭を向けて身構えている。せどさくはこうなったら猪の柔らかい腹を切り裂いてしとめる他無いと思い、山刀を抜いて猪を正身構えた。そして猪が突進し、せどさくに飛びかかった。せどさくは猪と共に転がりながら山刀を猪の腹に突き立て、ようやく猪の息の根を止めた。
そして夜、たき火をして休んでいると逃げたシロが戻ってきた。さっきの事は許すからこっちへ来て飯でも食えと言ったが、猪の死体を見たシロは突然水を吹き掛けてたき火を消してしまった。 せどさくはまた火をつけたが、シロは再び戻ってきてたき火を消してしまった。怒ったせどさくは山刀を抜きシロを殺してしまった。
その時せどさくはあることに気付いた。この猪は、せどさくにとって千匹目の猪だったのだ。この辺りでは猪の千匹狩りをするとたたりがあり、狩人は寿命が尽きると言われていた。シロはそのことを知っていて、猪を追うのを嫌がったのだ。せどさくはシロに 悪いことをしたと詫び、シロを埋めてやった。
しかしなぜシロがたき火をかき消したのか分からなかったが、せどさくは思い出した。化け物はたき火の明りを見て近付いてくるのだった。とその時、何かの気配に気付きせどさくが振り返ると、そこにはとてつもなく巨大な化け物がせどさくを睨んでいた。驚いたその瞬間、せどさくは化け物につかまれ谷底へ放り込まれてしまった。その後、せどさくの姿を見た者は誰もいない。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | クレジット不明 |
出典詳細 | 阿波の民話 第二集(未来社,1968年08月05日)に同タイトルのお話が掲載されている。 |
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