放送回 | No.0696(0437-A) |
放送日 | 1984年03月31日(昭和59年03月31日) |
出典 | 埼玉のむかし話(日本標準刊)より |
クレジット | 演出:古辺光治 文芸:沖島勲 美術:阿部幸次 作画:上口照人 |
ナレーション | 市原悦子 |
毎年、草木が芽吹く季節になると、ここ秩父(ちちぶ)の里に山を越えて信濃の国から行商にやって来るお爺さんがいた。そして近くの家に住む兄妹が、いつものこのお爺さんを迎えるのだった。
今年もお爺さんは、たくさんの荷物を馬に載せて山を越えてきた。ところが、里一番の急な峠に差し掛かった所で、おじいさんは急に胸を押さえ、苦しそうに倒れ込んでしまった。兄妹は慌てて、お爺さんを家まで運んで看病した。この兄妹、実は数年前に両親を病気で亡くしており、苦しむお爺さんを見て、他人事には思えなかったのだ。
さて、それから三日経つと、お爺さんの容体は回復し、布団から起き上がれるようになった。兄妹がお爺さんにお茶を差し出すと、お爺さんはちょうど夢でガラガラと茶釜でお湯を沸かし、郷里のお婆さんと茶を飲んでいたと言う。
しかし、それから数日経ったある日、お爺さんの容体は急変し、兄妹の看病の甲斐もなく亡くなってしまった。お爺さんは最期に、世話になった兄妹に馬と荷物をせめてものお礼に上げること。そして、馬の荷のつり合いを取るために載せてきた二つの石を、故郷の信濃の国が見渡せる所に置いてほしいと頼んだ。
兄妹はお爺さんの遺言通り、この二つの石を峠の鳥居の前に置いた。すると不思議なことに、握りこぶしほどの大きさだった石は、だんだん大きくなり、とうとう大人が五、六人で抱えるほどになった。その上、何やら石の中からガラガラと音がするのだった。
兄妹が石に耳を当ててみると、石の中からガラガラという音と、人の声が聞こえてきた。その声は、お爺さんが故郷のお婆さんと、仲良く茶を飲みながら話しているように聞こえるのだった。
この石はその後、誰言うとなく信濃石と呼ばれるようになった。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-9-3 11:22)
地図:秩父郡小鹿野町下小鹿野1380 八剱神社境内の信濃石 |