昔、国中は毎日暖かく、米、麦、あわ、ひえ、大豆、きびなどは根元から穂先までびっしりと実り、にわとりは毎日10個も卵を産み、魚は一年に何度も産卵するので、人間はろくに働かずとも食うに困ることはなかった。
だから寄ると触ると宴会ばかりしていた。食べ物もちょっと食べるとすぐ捨ててしまっていた(その時歌っていたのが「一生~八月、常月(毎夜満月)よ~、こうなの汁(酒)に米のめし~」 という歌です)。しかしこれを快く思わない者がいた。
それは天に住むあまんじゃく(小鬼)である。あまんじゃくは人間が楽して暮らしているのが気に食わない。そこであまんじゃくは人間を苦しめようと天空を駆け巡り、まず太陽をずっと遠くに離し、いつも暖かかった国に雪を降らせ、冬という季節を作った。
月の満ち欠けも作り、真っ暗な夜も作った。次は地上に降り、人間の作物を荒らし、稲や麦は実のなるのを穂先だけにした。次に大豆をしごこうと思ったが、大豆は穂先が針のように尖っているので諦めた。だから大豆は今でも根元からびっしりと実がなるのだ。
最後にきびをしごいたが、きびの歯が細くので手を切ってしまい、あまんじゃくの血がきびの根元を赤く染めた。だからきびの根元は赤いのだという。あまんじゃくは海へ走り、血だらけの手を洗った。すると海の上では人間達が酒盛りをしている。
その頃の舟はこがずに舟底をたたくだけで進んだ。それを見たあまんじゃくは海に潜り、舟底にへばりつくとまじないをかけ、舟底を叩いても動かないようにしてしまった。
その後もあまんじゃくは悪さをし続け、にわとりは日に一個しか卵を産まなくし、魚も一年に一度しか産卵しないようにした。雨と風を一緒に起こして嵐を生み出した。
こんなことが続いた人間はとうとう怒り、あまんじゃくを捕まえると火あぶりにして殺してしまった。あまんじゃくは焼かれて灰になったが、その灰から蠅、蚊、ノミが生まれたそうだ。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 瀬川拓男(角川書店刊)より |
出典詳細 | 自然の精霊(日本の民話02),瀬川拓男,角川書店,1973年8年23日,原題「壱岐のあまんしゃぐめ」,伝承地「長崎県」 |
場所について | 長崎の壱岐 |
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