昔、ある所に倹約家の老夫婦がいた。この夫婦の所にはしょっちゅう魚屋がやってきては、魚を売りつけようとしていたが夫婦は一度も買ったことがなかった。
ある日、魚屋は夫婦がなぜ魚を買わないのか探ってみることにした。 障子に穴を空けて家の中を覗いてみると、この老夫婦は松ヤニで出来たつくりものの魚を眺めながら、長時間かけて飯を食っていた。松ヤニの魚なら何度使ってもタダだから一度も魚を買わなかったのだ。
呆れた魚屋はそれなら本物の魚とどっちがうまいか、タダでやるから食ってみろと、縁側に魚を置いて夫婦が出て来るのを待った。しばらくしてじいさんが便所に行こうと出て来た。そして縁側に置いてある魚に気付き、驚いてばあさんを呼んだ。じいさんに呼ばれてばあさんも顔を出すと2人とも青くなった。
じいさんは「これがあると何杯も飯を食ってしまう。何杯も食えば米が無くなる!」と言った。 するとばあさんは「米が無くなるってことはこれは泥棒ですね!飯ぬすっとですね!」と賛同し、2人は杖を持って魚を突き落とし、便所に捨ててしまった。
これを見て老夫婦に恐れをなした魚屋は、もうそれ以来夫婦に魚を売りつけには来なかった。 で、この老夫婦はまるでケチなのかと言うとそうでもなく、村で橋をかけると言ってはお金を出し、道を作るといってはお金を惜しみ無く出していたそうだ。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 土橋里木(未来社刊)より |
出典詳細 | 甲斐の民話(日本の民話17),土橋里木,未来社,1959年03月31日,原題「飯ぬすっと」,採録地「西八代郡上九一色村」,話者「土橋くら」 |
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