昔、北の海の村にとても仲の良い若い夫婦が住んでおりました。しかし、妻は病気になってすぐに死んでしまいました。
残された夫は、悲しみで何日も何日も漁もせずにぼうっとする日々を過ごしました。しばらくして、若者は漁にでることにしましたが、そこで村人は「地獄穴がある」といって近づかない岩島にきてしまいました。
ふと、島をみると岸壁に一人の娘が一心に昆布を拾っています。船もないのにどうしたことかと思って声をかけてみると、なんと、その娘は亡くなった妻にそっくりの顔をしているのです。
急いで岸に船をつけましたが、娘は何も言わずに「地獄穴」と言われる洞窟の中に逃げていきます。若者は妻恋しさに洞窟の中へどんどん入っていくと、洞窟を抜けた先には不思議なことに村がありました。
でも人の気配が全然しません。若者が不思議に思いながらも妻を探していると老人に呼び止められました。妻の居場所を教えてくれと言うも、老人は冷たく「まだお前が来るところではない」と突き放しました。そして、若者が気づくとどうしたわけか元いた船の中にいたのでした。
若者はどうしてももう一度妻に会いたくて、何度も岸に船をつけようとしましたが、どうやっても船をつけることはできませんでした。若者は諦めきれずそれからも島に行こうと十日も二十日も同じことを繰り返しました。どんどんやせ細っていく若者を心配した網元や漁師達は、若者を説得することにしました。
「あの不思議な村に行きたいと願った古老の友人は、帰ってからすぐに死んでしまい、二度と行きたくないと思った古老は長生きをした。きっと嫁さんがお前にまだ生きて欲しいと願っているから行けないのだ」
そう諭しましたが、若者の妻に会いたいという思いは変わりませんでした。それからも同じことを続けた若者はある日、とうとう帰ってこなくなりました。村人は、きっとあの村で夫婦仲良くやっているのだろうと言い合ったのでした。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-9-8 11:52)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 北海道の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 北海道の伝説(日本の伝説17),安藤美紀夫,角川書店,1977年4年10日,原題「地獄穴の話」 |
場所について | シリパ岬 |
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