昔、ある所にウサギのうさ吉がいた。
ある朝、カメどんに会ったうさ吉は、ちょっとカメどんをからかってやろうと思い、「おはよう」と挨拶するカメどんにこう言った。
「“おはよう”ってのはおかしくないかい?だってカメどんは、ちっとも早くないのだもの。」
カメどんは答える。「いやいや、ゆっくり行くのも悪くないですよ。」
うさ吉はさらに言う。「何言ってるの?早い者が勝ちさ。」
こんな言い合いをしているうちに、どちらが早いのか、山のてっぺんまで駆け比べをすることになった。うさ吉は、用意ドンの合図で飛び出すと、あっという間にカメどんとの距離を広げた。
カメどんがあまりに遅いので、うさ吉は一休みすることにした。ところが、一休みのつもりが眠り込んでしまい、うさ吉が目を覚ました時にはすでに時遅く、カメどんは山のてっぺんに着いていた。
かけっこでカメどんに負けたうさ吉は、動物たちに笑われ、ウサギ族に恥をかかせたという理由で、ウサギ村からも追放されてしまった。
さて、それからしばらくして、ウサギ村に大騒動が持ち上がった。オオカミがウサギ村に現れ、子ウサギを三匹差し出すように言ってきたのだ。そんな要求はとても呑めず、かといって子ウサギを差し出さなければ、オオカミは村を襲うだろう。村の衆は頭を悩ましていた。
そこに、村の窮状を知ったうさ吉が帰ってきた。うさ吉は、ここは自分に任せてほしいと頼み込み、村の衆にもこれと言った妙案がないので、この件をうさ吉に任せることにした。
翌日、うさ吉はオオカミの待つ峠に一人で向かった。そしてオオカミにこう言った。「子ウサギを連れて来ましたが、オオカミどんの顔が怖いと子ウサギが言うので、あの崖の所で少しの間後ろを向いていて下さい。」
こう言って、オオカミを崖のそばに向わせると、うさ吉はオオカミの後ろから全力で突進した。そして、そのまま体当たりして、オオカミもろとも崖から落ちていった。うさ吉の思いが天に通じたのだろうか。うさ吉だけは崖下の松の木の枝に引っかかり、命びろいした。その後、うさ吉が村に戻れたのは言うまでもない。
(投稿者:やっさん 投稿日時 2015/2/17 18:37)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 岸なみ(偕成社刊)より |
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