昔、南の国のある浜辺にサザエを採って暮らしを立てている小さな村があり、この村に五郎太というサザエ採りの上手い若者がいた。
五郎太は毎日沢山のサザエを採ってきては村人達に自慢していたが、五郎太はこれに飽き足らず、そのうち沖の島のサザエまで採るようになった。村では沖の島と中の島の毎年交替でサザエを採る決まりがあり、今年のサザエ漁は中の島と決められていたのである。
五郎太の勝手な振る舞いを見兼ねた村人達は村長(むらおさ)に相談し、村長は五郎太に二度と沖の島でサザエを採るなと釘を刺した。しかし五郎太は村長の言う事も聞かず、ある日沖の島へ舟を出してしまう。
沖の島に着くと五郎太は村での憂さを晴らすかのようにサザエを採りに採りまくり、夜帰る頃には山ほどのサザエで舟は重くなった。そこで五郎太は一休みするため近くの島に舟を繋ぎ、腹ごしらえにサザエを焼き始めた。
と ころがおかしな事に、焼きたてのサザエの中身が食べる前に無くなっている。奇妙に思った五郎太はその時、「海で変な物に遭ったら舟を繋ぐ纜(ともづな)を 通す鉄の輪を覗けばその正体が分かる」という言い伝えを思い出した。五郎太は急いで舟に戻ると、纜を通した鉄の輪から焚き火の辺りを覗いてみた。
するとそこにはなんと白髪の痩せこけた爺がおり、爺は焼けたサザエを指でくり抜き次々と中身を食っていたのだ。五郎太はこの爺が海に住み人を食う海じじいだと知り早く逃げようとするが、海じじいは五郎太を見るや、「もちっとサザエを食わせぇ!」と五郎太に迫ってきた。
五郎太はサザエの山を海に捨てると舟を軽くし、海じじいの恐ろしい声を背に島から逃げ出した。そして翌日、村の浜では気を失った五郎太が倒れていたが、恐怖のあまり髪は真っ白になっていた。
その後五郎太は口も心も閉ざしたままだったが、秋祭りが村に訪れる頃には心を入れ替えたのか、村人達と一緒にまたサザエ漁に出るようになったという。
(投稿者:お伽切草 投稿日時 2014-1-17 20:45 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 大分のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 大分のむかし話(各県のむかし話),大分県小学校教育研究会国語部会,日本標準,1975年10月01日,原題「海じじい」,採録地「南海部郡鶴見町」,話者「菅一郎」,再話「菅淳一」 |
場所について | 大分県佐伯市(地図は適当) |
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