むかし、下野の国(しもつけのくに)に源じいという百姓がおりました。百姓といっても源じいは三度の飯より網打ちが好きで、よく川に行っては一日中網打ちをしておりました。
ある夏の夕暮れのこと。釜ヶ淵(かまがふち)と呼ばれる、切り立った崖に囲まれた深い淵にたどり着きました。この淵の上には、その昔勝山の城があり美しい姉妹姫が居ました。姉が紅葉姫、妹が雪姫と言い、この二人の姫は、戦で両親も殺されて、敵に追い詰められこの淵に身を投げてしまったという言い伝えがありました。
源じいは、少し薄気味悪くなりながらも網打ちを続行していると、やがて船の周りに美しく鮮やかな緋鯉と雪のように真っ白な鯉が現れました。源じいが投げた網にかかった真っ白な鯉は、淵の底に引きずり込むようなすごい勢いで網を引っ張りました。
源じいはやっとの思いで真っ白な鯉を船に引き上げ、立派な鯉に大満足して家路につこうと船を漕ぎ始めました。すると、どこからともなく「雪姫、雪姫」と呼ぶ若い女の声が聞こえ、源じいの船はあっというまに転覆してしまいました。船から逃げ出した真っ白な鯉は、大きな緋鯉と寄り添うように淵の奥へと姿を消して行きました。
翌朝、源じいが気が付くと淵よりずっと下流の岸辺に投げ出されていました。源じいは夢でも見たのだろうと思いましたが、それっきり大好きだった網打ちを一切やめてしまいました。
今でも、釜ヶ淵では美しく鮮やかな緋鯉と雪のように真っ白な鯉が、淵の深くに潜んでいて、時々寄り添って水面まで上がってきては仲良く泳ぐのだそうです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-7-16 16:57)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松谷みよ子(角川書店刊)より |
出典詳細 | 乱世に生きる(日本の民話08),松谷みよ子,角川書店,1973年2年10日,原題「雪姫・紅葉姫」,伝承地「栃木県」 |
現地・関連 | お話に関する現地関連情報はこちら |
場所について | 下野の国(しもつけのくに)の勝山城 |
このお話の評価 | 9.00 (投票数 8) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧