放送回 | No.0580(0363-B) |
放送日 | 1982年10月16日(昭和57年10月16日) |
クレジット | 演出:しもゆきこ 文芸:境のぶひろ 美術:しもゆきこ 作画:しもゆきこ |
昔、由布山(ゆふさん)の精と九住山(くじゅうさん)の精とが、美しい鶴見山の精である姫を妻に迎えようとした時の話です。
鶴見から近いところに住んでいた由布山の精は、二人は幼い頃から親交があり、由布は鶴見を妻に迎えたいと心ひそかに思っていました。そんな秋の日、遠く離れたところにある九住山の精である若者が、旅の途中に一夜の宿を求めて鶴見の屋敷を訪れました。そこで鶴見の姫に一目ぼれしてしまった九住は、高く火を吹きあげる山にふさわしく、胸の熱い思いをストレートに口にしました。「どうか私の妻になってくれ」
鶴見の姫は、初めて聞く男の口説き言葉に心を奪われ、いつしか結婚の申し出にうなずいていました。姫の返事をもらった九住は、弾む心を抑えて婚礼の準備のために国へ向けて旅立っていきました。二人の事を知った由布は、魂がちぎれるような悲しみに耐えて、姫のもとに美しいキキョウの花と手紙を贈りました。「よその土地に行かれても故郷の山の花を忘れたもうな。道の端、野のすみに咲き続ける花のある事をわすれたもうな」
鶴見の姫は、幼いころからいつも優しかった由布の事を思い出していました。姫は、いつも近くにいてくれた由布を愛していた事に気が付いて、素足で由布のもとへ駆け出しました。こうして由布山と鶴見山は永久に結ばれました。
翌日、九住の一行が姫を迎えに屋敷にやってきましたが、一通のかきおきを乳母から受け取りました。「足元の草花にどれほど心慰められていたかに気づかず、遠くの花の美しさに目を奪われておりました。私は由布さまのところへ参ります、なにとぞお許し下さい」鶴見の姫のまっすぐな心を知った九住は、辛さを胸に飲み込んで男らしく立ち去っていきました。
九住山がその時に流した涙がたまり、今の志高湖になりました。由布山と鶴見山は今でも仲むつまじく寄り添い続け、九住山は雲をついて雄々しくそそり立っています。
(紅子※講談社の決定版100より 2012-1-22 21:11)
地図:鶴見山(鶴見岳) |