昔、九州のある町に吉五というとんち者で有名な男がおりました。吉五は立派な体をしているうえに女房も子供もいましたが、毎日ぶらぶらしていました。こんな男でしたが、町の人たちからはたいそう親しまれておりました。
ある日、質屋に泥棒が入り、小判を二枚持って逃げ出しました。吉五は、逃げる泥棒をうまく誘導し、木の上に登らせ身を隠させました。しかし泥棒が飛び降りた際、盗んだ小判を二枚とも落としてしまい、吉五はまんまと泥棒から小判を巻き上げました。そして、この小判を持って質屋に向かい「小判を拾ったので一枚ずつ山分けしよう」と話を持ちかけ、合法的に小判一枚を手に入れ、家に帰って行きました。
しかし女房は、昼間からぶらぶらしてちっとも働かない吉五を見て大激怒しました。そこで吉五は何か暮らしの足しなる事をしようと、そだ(たきぎ用の木の枝)売りのお婆さんを騙して、一束三十文のところを半値の十五文で買い取りました。これを見た女房はますます怒り、吉五の耳を引っ張りお婆さんの前に連れ出して、土下座して謝らせました。
この様子を見た町の人もお婆さんも「さすがの吉五も女房にはかなわんのぉ」と言って、大笑いしました。素直に謝る事ができるところも吉五の良いところだ、とみんなは噂しました。
(紅子 2011-12-23 21:03)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 大分県 |
本の情報 | 講談社デラックス版まんが日本昔ばなし第37巻(絵本発刊日:1985年09月15日) |
絵本の解説 | とんちに富む、愛すべき人間として、吉四六さんとならんでよく登場するのが、このお話の主人公、吉五です。吉五は、得意のとんちをはたらかせて泥棒を助け、そのお金を取りあげて、そのうえお金の持ち主から半分をお礼としてもらってしまうような、ちゃっかりした一面をもっています。その一方、正直者で働き者の女房にはかなわず、彼女にしかられたときには例のとんちも影をひそめて、ひたすら平あやまり。そこがまた、人々から親しまれたゆえんでもあります。ユーモアは暮らしの潤滑油。きちごのユーモラスなふるまいは、まわりに明るい笑いをふりまいたことでしょう。(大分地方のお話)(講談社のデラックス版絵本より) |
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