昔、下関の南部町(なべちょう)にある専念寺には、たいそう大きなつり鐘がありました。この村の人たちは、毎朝鳴りわたる鐘の音を合図に暮らしていました。
ある年の夏、不思議なことに鐘がひとりでに鳴るようになりました。そんなある晩のこと、ひとりの若い娘がお寺の和尚さんの枕元に現れ、「あの鐘は竜宮のものです、鐘を返さなければ鐘もお寺も粉々に砕きますよ」と言い、海へ消えていきました。
翌日、和尚さんと村人たちは相談して、女の人の髪の毛で綱を編み、つり鐘を縛りつけておくことにしました。女の人の髪の毛はこの世で一番強い、と言われているからです。その綱で縛りつけたつり鐘は、その晩から鳴らなくなりました。
ところが三日目の朝になって、綱はぷつんと切れ、まるで足でも生えているように鐘が歩きはじめました。お寺の石段を下って浜辺へ進んで行くつり鐘を、村一番の力持ちの又五郎が引きとめようと必死につかみました。しかし、鐘はとうとう海の底深くへもぐっていってしまい、又五郎の手にはつり鐘のてっぺんにあった竜頭(りゅうず)だけが残っていました。
のちに和尚さんが、このつり鐘について調べてみると、百年ほど前に波打ち際にうちあげられていたものと分かりました。そこで、あらためて新しい鐘をつくり、その上に竜宮の鐘が残していった竜頭をつけたという事です。
(紅子※講談社の決定版100より 2011-11-15 1:36)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 山口県下関市 |
DVD情報 | DVD-BOX第12集(DVD第59巻) |
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場所について | 専念寺 |
講談社の300より | 書籍によると「山口県のお話」 |
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