昔、富士の裾野に松五郎という炭焼きが住んでいた。松五郎は力も強く、心優しかったが嫁がいなかった。
松五郎が炭を焼いたかまどからは、白い煙が立ちのぼって、風のない日には遠い都からも見えた。都の皇女さまは、その煙を見て不思議に思い占い師に尋ねた。占い師は「あの煙は、皇女さまの婿となる方が、かまどから出している。きっと東国一の大金持ちでしょう」と言った。
皇女さまは、その煙へ向かって何日も歩き続けた。明日には着くという所で煙は消えてしまった。ちょうどその時、松五郎は用事ができて故郷の「明日見」に帰っていた。皇女さまと付き人が、松五郎の小屋にたどり着いた時には、誰もいなかった。
出会った人に松五郎の行方を尋ねると「明日見にござっしゃる」と、言ったので富士の裾野で野宿して帰りを待つ事にした。次の日、小屋に行ったが誰もおらず昨日の人に聞いたら、また昨日と同じ事を言ってきた。二人は、明日見にを明日見に来いというのと間違えていた。
次の日に、二人はやっと会えた。付き人は、会えたお礼に小判を渡したが、松五郎はその小判を鴨を仕留めるのに使ってしまった。皇女さまはそんな松五郎が気に入り、とうとう結ばれることになった。式の時に皇女さまが被った冠は、瓔珞の冠といって、美しい飾りが垂れ下がったものだった。
その後、松五郎は名高い炭焼き長者となって、何年も不自由なく暮らした。しかし、ある日皇女さまが重い病にかかり、日に日に病はひどくなっていった。皇女さまは「私が死んだら、あの瓔珞の冠を峠に埋めてください」と言って、その七日後に無くなってしまった。松五郎は、遺言どおり瓔珞の冠を峠に埋めた。
そこは皇女さまが松五郎に会う数日前、都に向かってお別れを告げた場所だった。それからの松五郎はぼんやりと山を眺めて暮らす日が多かった。春が来て峠に登ってみると、そこには瓔珞に似て美しいつつじが垂れ下がっていた。そこで松五郎は、皇女さまの後を追うように死んでいたのだった。
松五郎が最後に見た景色は、皇女さまが都に向いお別れを告げた時と同じだった。それからは村人がそのつつじの事を、瓔珞つつじと言うようになったのだった。
(投稿者: KK 投稿日時 2012-10-14 15:05 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 山梨県 |
場所について | 富士宮市の天子ヶ岳 |
本の情報 | 国際情報社BOX絵本パート2-第094巻(発刊日:1980年かも) |
講談社の300より | 書籍によると「山梨県のお話」 |
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