放送回 | No.0402(0252-A) |
放送日 | 1980年08月30日(昭和55年08月30日) |
出典 | 松岡利夫(未来社刊)より |
クレジット | 演出:殿河内勝 文芸:沖島勲 美術:門屋達郎 作画:殿河内勝 |
ナレーション | 常田富士男 |
むかしむかし、正直者の爺さんがおった。爺さんは婆さんに先立たれ、子供もいない寂しさからその日その日を細々と暮らしておった。そうして、爺さんの隣には大金持ちで欲張りの男が住んでおった。
ある夜、爺さんは婆さんの夢を見た。夢の中で婆さんは星になって、天から爺さんのことを見守っておった。「婆さん、ワシも早う天に登ってお前の傍に行きたいよう。」と、爺さんは星に向かって呟くのじゃった。
じゃが、それを隣の男が聞いておった。そうして男は爺さんに「天に登るには金がいる。金がないのならワシの所で三年働けば都合してやる。」と吹き込んだ。天に登ることなどできる訳がないのに、爺さんは悪い男の口車に乗って、男の家で働くことになったそうな。
天に登るという目標ができたせいか、爺さんはすっかり元気になって働いた。爺さんの頑張りで、隣の男の財産はみるみる増えていった。そうして、三年の月日が流れた。
三年目のある日、男は長い長い梯子(はしご)を高い松の木に立てかけた。そうして、この梯子の天辺に登れば天に登ることができると言うのじゃった。爺さんは喜んで男にお礼を言い、梯子を登り始めた。男はこれだけ長い梯子なら、爺さんは途中で足を滑らせて落ち、二度と生きて降りてこないじゃろうと思うたのじゃった。
じゃが、爺さんは梯子の天辺まで登ってしもうた。すっかり困った男は爺さんに「天に登るには、まず右手を離せ~。次に左手も離せ~。それから右足も外せ~。最後に左足もじゃ~。」ともっともらしく呼びかけた。
爺さんは、男の言うとおり、順々に手を離し、足を離して、とうとうにっこり笑ったまま梯子の天辺からゆっくりと落ちてきた。そのとたん大きな光の輪が現れ、爺さんはその光に包まれて望みどおり天に登って行った。そうして爺さんは、婆さんと並んできらきら輝く大きな星になった。
人々はこの松を天昇りの松と呼んで、長い間切ることはなかったそうじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-9-23 21:37)