放送回 | No.0321(0201-A) |
放送日 | 1979年09月08日(昭和54年09月08日) |
出典 | 岸なみ(未来社刊)より |
クレジット | 演出:山田みちしろ 文芸:境のぶひろ 美術:宮川一男 作画:山田みちしろ |
ナレーション | 市原悦子 |
昔、伊豆の高根神社に一本のとても巨大な松の木が立っていた。この地は松の多い所だったがこの松は桁外れの大きさで樹齢三百年、四百年の松など問題にならなかった。
この松は一つの不思議があった。松葉が落ちている事がなかったのだ。それはこの大松に天狗が住んでいるからだった。天狗たちはとてもきれい好きで毎日、昼も夜も箒で掃き清めており、また用心深く、人間に姿を見せる事はなかった。
ある日の昼時、一人の若者が大松の方から不思議な音を聞いた。若者は夕方になると大松へと向かって歩いた。その時、見張りの天狗がサボっており、近づいてくる若者に気がつくのが遅れた。天狗たちは慌てて松に隠れたが、一人の天狗だけ合図に気づかず掃除を続けていた。
若者は初めて地面に落ちている大松の松葉を見た。若者が聞いたのは箒で掃いている音だったのだ。箒で掃いている天狗に後ろから近づき声をかけると、天狗が驚いて気まずそうに振り返った。若者と天狗はしばらく呆然とし、二人して大声を上げて一目散に逃げ出した。
話を聞いた村人が若者とともに大松にやって来たが、何の気配も無く静かに風の音が聞こえるだけで若者が見たこぼれ松葉も無くなっていた。村人は狐か狸に化かされたんだろうと言い、若者も半信半疑で夕方に自分が落とした鍬を持って帰って行った。
しばらくして村は大嵐に見舞われた。村人も天狗も経験した事が無い大風が吹いた。流石の大松もこの風に耐えきれずに根元から横倒しになってしまった。翌朝、嘘のように空は晴れたが大松は倒れたままだった。村人は腐らせるより切った方が大松の最後に相応しいズラよ。と言って明日の朝、木こりに大松を切ってもらう事にした。
その晩の事、景気の良い掛け声が夜通し響き渡った。翌朝、村人は驚いた。大松が元通りに立派に立っていた。やっぱり大松には天狗が住んでいたのだ。昨夜の掛け声は天狗だったのだ。と村人はつぶやいた。
その後も大松の周りはとても綺麗で松葉が落ちている事は無く、天狗たちはずっと大松の掃除をして暮らしたという。
(投稿者: のんの 投稿日時 2012-5-2 1:32 )
地図:伊豆市上船原134の高根神社か? |