むかし、天上の雲の上に立派な館があり、そこには雷の神さまの兄妹が住んでおられた。ある日、兄が留守の間、妹の女神は雲の上から下界を見渡していた。すると、ちょうど雲の切れ間から下にアイヌの里が見えので、女神は下に降りてアイヌの里に遊びに行くことにした。
ところが里に降りると、里はひっそりと静まり返っており、人々には元気がなかった。そこで女神は酋長に訳を聞いてみた。酋長が言うには、今年はどう言う訳か神さま方が獲物を降ろしてくださらないので、海にも山にも獲物がおらず、ワシらはひもじい思いをしているということだった。里の窮状を知った女神は急いで天に戻った。
さて、雲の上の館には兄神が大事に育てている一本の柳の木があったが、女神はこの柳の木の葉を一枚一枚摘み取ると、それに息を吹きかけて籠の中に入れた。そして、女神はふくろうの神を呼ぶと、籠の中の柳の葉を里の川に流してくるように頼んだ。ところが、ふくろうの神は慌てて飛んでいったので、籠の中の柳の葉はそこら中に散らばってしまった。
女神は仕方なく、柳の葉を拾い集め、自分で里の川に流した。すると、女神の息の入った柳の葉は銀色の小さな魚に変り、川の中を泳ぎだした。この小さな魚のおかげで、里の人々はひとまず飢えをしのぐことが出来た。そして、この魚は柳の葉から出来たので、以後、柳葉魚(シシャモ)と呼ばれるようになった。
ところが、館に帰ってきて、柳の葉が取られていることに気づいた兄神の怒りは大変なものだった。兄神の怒りで、空には雷鳴がとどろき、稲妻が走った。女神はアイヌの里の窮状を必死にうったえ、柳の葉は自分が面倒をみて元に戻すと約束して兄神の怒りをなだめた。
ようやく怒りのおさまった兄神は女神に言った。「見ろ。おまえが海の神とも川の神とも相談しないで川に流すから、シシャモがどっちに泳いでいったらよいかわからず、右往左往してるじゃないか。ワシはこれから海の神に相談しに行く。」
それからしばらくすると、アイヌの里には海の幸、山の幸があふれるようになり、人々の喜ぶ声が聞こえた。兄神から里の窮状を聞いた天上の神々が、たくさん獲物を下ろしてくださったのだ。シシャモは海の神と川の神の両方で面倒をみることになったので、それからというもの、毎年秋になると海から川に登ってくるようになったということだ。
そして、この川は日高の鵡川(むかわ)だと言われている。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-8-13 9:33 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 安藤美紀夫(角川書店刊)より |
出典詳細 | 北海道の伝説(日本の伝説17),安藤美紀夫,角川書店,1977年4年10日,原題「柳の葉の魚」 |
場所について | 鵡川(地図は適当) |
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