昔、江戸の東、小松川の篠崎村あたりに、よく人をたぶらかす一匹の狐がいました。
また、この近くには、魚を売って暮らしている二人の若者も住んでいました。二人の若者のうち気の強い方の若者は、せっかく作った干し魚を狐に騙し取られる事に、いつも腹を立てていました。
ある時、気の強い若者が、草むらで昼寝している狐を見つけました。そこで、そっと狐に近づいて、思いっきり尻尾を踏んづけてやりました。すると、晴れわたっていた空がにわかに曇って、大雨が降ってきました。
慌てた若者は、近くの知り合いの家で雨宿りをさせてもらう事にしました。知り合いの家では、たまたま女房が死んだらしく、家の亭主は棺桶を担いでそのまま出ていきました。
若者は一人残され、囲炉裏(いろり)で着物を乾かしていると、死んだはずの女房が幽霊となって現れました。若者は、持ち前の気の強さで、幽霊と格闘しはじめましたが、どうやっても手におえません。若者は、ありったけの力で棒を振り回しました。
ちょうどその時、村の百姓たちが炎天下の中で畑仕事をしていました。ひょいと見ると、若者が一人で、転げたり倒れたりしながら何かと格闘しているようでした。百姓たちが冷たい水をぶっかけてやると、若者はようやく正気に戻りました。
これまでの事すべては、狐が仕返しのために見せた幻覚でした。その後、若者は赤飯と油揚げをお供えして、狐の祟りを払いました。
しかし、激しい雨も幽霊も幻覚でしたが、腕に噛まれた痛みだけは本当でした。昔はこんな不思議な事が、ちょくちょくあったそうです。
(紅子 2013-9-20 19:41)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 川崎大治(童心社刊)より |
出典詳細 | 日本のふしぎ話(川崎大治 民話選3),川崎大治,童心社,1971年3月20日,原題「さかな売りときつね」 |
場所について | 篠崎村(地図は適当) |
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