昔、ある村に仲の良い働き者の兄弟が住んでおりました。
あるとき、弟が川へ水を汲みに行くと、とても綺麗な二つの「たにし」を見つけました。あまりに綺麗だったので弟は兄にも見せ、二つのたにしを持って帰り、家で飼うことにしました。
次の日、夕暮れになって弟が夕飯の用意をするために一足先に帰宅すると、家から煙が出ています。不思議に思って弟が家に入ると、既に夕飯の用意はできていました。薄気味悪く思った弟は、次の日も同じことが起こったので、事の次第を兄に話して聞かせました。
そして、三日目の夕暮れ。兄弟はいつもより早く帰宅して、家の中を覗き込んでみました。すると包丁の音がします。慌てて家に入ってみると、二人の美しい娘が夕飯の用意をしていました。「お前さんたちはいったい誰じゃ?」と問いかけた兄弟に、娘たちは自分が三日前に拾ってもらった、たにしの姉妹であることを話しました。
実は、この娘たちは川の向こうの里の庄屋の娘でした。ところが甘やかされて育ったために成長するにつれて親の言うことを聞かなくなっていきました。家の手伝いもせずに遊び続ける姉妹に母親は「そんなに働かないでいると、今に“たにし”にでもなってしまいますよ」と戒めましたが、娘たちは「なんの、たにしになってもええわいな」と返しました。すると、その途端に二人はたにしになってしまったのです。
夕暮れ時だけは元の姿に戻れるため、罪滅ぼしに夕飯の用意をしていたと明かす姉妹を哀れに思った兄弟は、姉妹が元の姿に戻れるように恵比寿様に毎日お参りをして祈りました。幾日かたったある日、恵比寿様が夢枕にたち「お前達の熱心さに免じて姉妹を人間に戻してやろう」とお告げがありました。
次の日の朝、目を覚ました兄弟が見たものは、元の姿に戻れた姉妹の姿でした。姉妹は兄弟にお礼を言って、無事に里に帰って行きました。そして、姉妹は今までのことを反省して、それからは真面目に働くようになったということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-12-27 1:33 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 松岡利夫(未来社刊)より |
出典詳細 | 周防・長門の民話 第二集(日本の民話46),松岡利夫,未来社,1969年10月20日,原題「たにしの姉妹」,採録地「熊毛郡、都濃郡、佐波郡」,話者「濡木マツ、河村八郎、川島タカ」 |
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