むかし、瀬戸内の能美島(のみじま)の大柿(おおがき)という所に、利平爺さんという船頭が住んでおった。利平爺さんは、毎月一回、船に荷物を積んで大阪に運ぶのが仕事じゃった。
ある年の秋のこと、利平爺さんは息子が獲った鯛を一杯積んで、二ヶ月ぶりに船を出したそうな。ところが瀬戸内海を進むうち、船底から妙な音が聞こえてきた。利平爺さんが船底に降りてみると、魚箱の中の鯛の目ん玉が飛び出しておる。船には狐が一匹忍びこんでおって、その狐が鯛の目ん玉を吸っておったんじゃ。
結局、売り物の鯛は全部、目ん玉が飛び出してしまっておった。怒った利平爺さんは狐を捕まえて縛りあげたが、狐が「わしは比治(ひじ)に住む“おさん”という狐です。鯛の目ん玉をくり抜いて吸うのが大好きで、船に忍び込んだんです…。目ん玉が飛び出した鯛はわしが売ってきますけえ、どうか許して下さい。」と、あんまり頼むので許してやることにしたそうな。
大阪の港に着くと、おさんは魚屋に化け、目ん玉の飛びだした鯛を担いで街へ売りに出かけた。ところが、「目ん玉が飛び出して気色悪い鯛やなぁ。」「古いのとちがうか?」と、どこに行ってもさっぱり売れんかった。おさんは、ほとほと困ってしまい、狐達の総元締めである伏見のお稲荷大明神にお願いすることにした。すると、お稲荷さんは「目が出ている鯛じゃから、『目出鯛(めでたい)』と言うて売り歩けば良い。コ~ン!」と告げたそうな。
おさんは早速、大阪の街で「めで鯛じゃ、瀬戸内で獲れためで鯛じゃぞ~!」と言って売って歩いた。すると、目ん玉が飛び出した鯛は高い値段で飛ぶように売れた。おさんは鯛を全部売りつくして、意気揚々と船着き場へ戻った。利平爺さんはそのお金で孫への土産も買うことができ、大喜びしたんじゃと。
そうして利平爺さんは、比治山に帰りたいと言うおさんを能美島まで送って行ってやったそうな。広島のおさん狐は、この“おさん”の子孫じゃと言うことじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-6-22 21:38 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 垣内稔(未来社刊)より |
出典詳細 | 安芸・備後の民話 第一集(日本の民話22),垣内稔,未来社,1959年11月25日,原題「おさん狐と目出鯛」,採録地「佐伯郡」,話者「木村正人、木崎タマ」 |
場所について | 江田島市大柿町(地図は適当) |
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