放送回 | No.1430(0912-B) |
放送日 | 1993年12月04日(平成05年12月04日) |
出典 | 加来宣幸(未来社刊)より |
クレジット | 演出:辻伸一 文芸:沖島勲 美術:小出英男 作画:辻伸一 |
ナレーション | 市原悦子 |
昔、博多の町に大きな荒れ寺がありました。その寺の裏から、毎晩不気味なはらつづみの音が聞こえてくるというのです。町の人が正体を確かめようとお寺の様子を探りに行きましたが、その謎は誰もわかりませんでした。
ある時、一人の年老いたお坊さんがこの荒れ寺にやってきて、住みつくようになりました。毎日、近所の子供たちを集めては昔話を聞かせたり、親切に手習いを教えてあげたりしたので、町で評判になりました。そんなある夜の事、お坊さんが人々をお寺に集めて、不気味なはらつづみの音の聞こえる中で、静かに話を始めました。
今から50年ほど前、博多の町に親もない平吉という若者が住んでいました。その隣には、一人暮らしの美しい盲目の娘が住んでいて、一匹の狸を大切に飼っていました。平吉は、この娘を嫁にしようと熱心に口説きましたが、娘は首を横に振るばかり。平吉は、娘に可愛がられている狸がとても忌々しく思えてきました。
この晩は、博多の町がにぎやかになるお祭りの日でした。寝ている娘の家に忍び込んだ平吉は、狸を殺すつもりで誤って娘も一緒に刺し殺してしまいました。平吉は、あるお寺の裏庭に二人の遺体を埋めて、博多の町から消えました。しばらくして、この寺からはらつづみの音が聞こえるようになったのです。
お坊さんはここまで話して、人々を二人が埋められている裏庭に案内しました。このお坊さんは、その時の平吉だったのです。翌朝、町が見下ろせる高台に娘と狸を丁寧に葬ったお坊さんは、いずこへか去って行きました。その夜から、はらつづみの音が聞こえてくることはありませんでした。
(紅子 2012-4-27 21:38)