昔、愛媛県宮窪の沖に鯛崎島という小さな島がありました。
ある年の春のこと、母鯨と3匹の子鯨が島の近くを通りかかりました。母鯨は眠くて仕方が無かったので、島の浜辺で昼寝をすることにしました。子鯨は母の周りで遊んでいるので、母鯨は安心して眠ったのですが、母鯨が目を覚ましたときには潮が引いており、浅くなって泳げなくなっていたのでした。
子鯨が途方に暮れて泣いていると、島に建っているお地蔵様が立ち上がり、「お母さんを助けてあげるからね。」と自分の念力で鯨を動かそうとしましたがうまくいきませんでした。次に、お地蔵様は海に呼びかけ、たくさんの魚に集まってもらい鯨の体を押しましたが、鯨が大きすぎて動かせず、魚たちは力尽きて水面に浮かび上がってしまいました。お地蔵様は涙を流し「鯨さん・・・ごめん・・・助けられなかった・・・」とあきらめかけました。
その時、蛸のおじいさんが現れ「海の生き物全てを集めるのじゃ!」とお地蔵様を一喝しました。海の生き物がぞくぞくと集まってきましたが、色んな種類が集まったので今度は喧嘩が始まってしまいました。お地蔵様が魚たちを諫めて、喧嘩を止めました。
烏賊と喧嘩しつつ蛸のおじいさんは「まず鯨を浮かせて魚たちを下に潜らせ、全員で持ち上げるんじゃ。」と言いました。魚たちは鯨のお腹をくすぐって体を浮かせ、エビや貝、魚たちが下に潜り込みました。お地蔵様の掛け声に合わせて、鯨の体は少しずつ動き、ついに海に戻すことが出来ました。
しばらくすると母鯨は潮を吹いて浮かび上がり、無事に沖へと帰っていきました。蛸のおじいさんと烏賊は笑顔で「おまえさんにしては上出来じゃ。」と喜びました。お地蔵様は「みんなが助けてくれたからのう。」とうなずきました。
それから毎年、30頭から10頭の鯨がお礼参りに来るようになりました。今でもお地蔵様は磯の上に座って修行に励んでいるそうです。
(投稿者: のんの 投稿日時 2012-2-17 22:34)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 愛媛のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 愛媛のむかし話(各県のむかし話),愛媛県教育研究協議会国語委員会、愛媛県教育会,日本標準,1975年11月10日,原題「クジラのお礼まいり」,話者「矢野勝明」,再話「渡辺正幸」 |
場所について | 鯛崎島(お地蔵さんの場所)※無人島 |
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