昔、ある村にこんな言い伝えがあった。林を抜けた一本道の先に深い谷があり、その向こうに三つの山がある。そして、その三つの山を越えれば宝の山があるのだと。しかし、今まで宝の山を目指して帰って来た者は、誰一人としていなかった。
この話を古老から聞いた清六(せいろく)という若者が、贅沢(ぜいたく)な暮らしを夢見て宝の山へと向かった。すると、一つ目の山の入り口で見慣れぬ老人に出会う。老人は清六に、宝の山に行きたくば、決して後ろを振り返ってはいけないと忠告する。
清六は険しい山道を登り、一番目の山の頂上に立つ。すると突然目の前に火の手が上がり、辺りは山火事になった。清六は、逃げようと思わず後ろを振り返ってしまった。すると清六の体は石になってしまい、谷底に落ちていった。
次は良助という若者が宝の山に挑んだ。良助は山火事の中、火を笠で防ぎ、なんとか二番目の山の上までやって来た。ところがこの先は針の原が広がっている。良助がどうしたものかと思案している所に、大蛇が襲いかかって来る。ここで良助も恐ろしさのあまり後ろを振り向いて、石になってしまう。
さて、ここに一郎太(いちろうた)という若者がいた。一郎太は、わずかばかりの畑を耕し、食べる物にも事欠く暮らしだった。そこで一郎太は、村を捨てる覚悟で宝の山に挑む決心をした。
一郎太も一番目の山を越え、二番目の山の上にやって来た。ここで一郎太は、襲いかかる大蛇を鍬(くわ)で倒した。すると大蛇は針の原の上に倒れ、大蛇の死体は三番目の山へと続く道となった。
三番目の山の上では巨大な虎が現れ、一郎太の行く手をふさいだ。しかし、さすがにこの虎には全く歯がたたない。そこで一郎太は、一か八か虎の口の中に飛び込んでみた。すると不思議なことに、虎の体の中には、なんとも美しい山里が広がっていた。
山里には山の入り口で出会った老人がおり、見事三つの山を越えた一郎太の望みを叶えると言う。そこで一郎太は、ずっとここで暮すことを望み、その後この豊かな山里で一生幸せに暮らしたということだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-12-24 19:00)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 新潟県 |
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