放送回 | No.0139(0085-B) |
放送日 | 1977年05月21日(昭和52年05月21日) |
出典 | 徳山静子(未来社刊)より |
クレジット | 演出:森田浩光 文芸:沖島勲 美術:下道一範 作画:森田浩光 |
ナレーション | 市原悦子 |
昔、紀州の山には沢山の恐ろしい獣がおりました。そんな時代のお話です。
ある山里に、黒八(くろはち)というお爺さんが、街道沿いの村はずれに住んでおりました。この黒八爺さんは、昼は山に芝刈りに行き、夜は家で草鞋(わらじ)を編んで、家の軒先に吊るし、街道を通る人々に無償で提供しておりました。
ある時、草鞋の代金として米が置かれていたので、黒八爺さんはそれでおむすびを作って、次の日にいつも入る山とは違う山へ出かけることにしました。
そして山に入り、芝を刈ってお昼になったのでお弁当を食べようとすると、茂みの中から恐ろしい狼が現れました。さすがの黒八爺さんも慌てましたが、自分を食べるのなら「わしの命」をやろうと、おむすびを狼に与えました。黒八爺さんは「明日もやるでな」と言ってわかれ、狼は嬉しそうに山へ帰って行きました。
そして次の日、狼は自分の妻を連れてきていました。こうして、2匹の狼におむすびをあげているうちに、2匹の狼と黒八爺さんはとても仲良くなりました。
そんなある時、狼たちは黒八爺さんと一緒に里へ降りてきてしまいました。村人達はびっくり仰天して黒八爺さんに抗議をしましたが、黒八爺さんは「この狼たちはおとなしいから大丈夫じゃ」と言って、それから狼たちと一緒に暮らし始めました。
その年の秋、村は稀に見る大豊作になりました。黒八爺さんの狼たちのおかげで、山の獣が警戒して里に下りて田畑を荒らさなくなったためだったので、村人達はとても感謝して毎日米を三升届けるようになりました。
そうして、黒八爺さんが長生きをして亡くなったのち、村人達は感謝の念をこめて「黒八大明神」として祀ることにしました。このお祭りでもらったお札を持っていると、どんな山奥に入っても獣に襲われないということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-6-28 1:47 )