むかしむかし、四国は土佐の幡多(はた)の山奥に『とんべえ』という腕の良い猟師がおった。とんべえは毎日罠でたくさんの獲物を獲っており、そのせいで、 この辺では生き物がすっかり減ったと言われておった。じゃが、とんべえは「山の神様のバチがあたるぞ!」と村人に言われても相手にせんかったそうな。
そんなある日のこと、遠い海の村から魚売がやってきた。そうして、とんべえが仕掛けた罠に兎がかかっているのを見つけた。その日、魚がさっぱり売れずくさくさしていた魚売は、罠にかかった兎と売れ残った赤鯛をこっそり取り替えてしもうた。
次の日の朝、びっくりしたのはとんべえじゃ。こんな山奥の罠に見たこともない赤い魚が三匹もかかっておったのじゃから。とんべえからその話を聞いて村中が大騒ぎになった。結局、これはとんべえが生き物を獲りすぎるので、山の神様のバチがあたったのじゃということになった。
「恐ろしい顔をした魚じゃ。山の神様はよっぽど怒っとるんじゃ。」「山の神様の怒りを鎮めるには、赤鯛様をお祭りするしかねえ……。」と、村人達は一晩中話し合った。とんべえは真っ青になってオロオロしておったそうな。
それから半月ほどして、あの魚売がまた山奥の村にやって来た。すると、神社が何やら賑やかじゃ。境内では村人達が赤鯛を担いで踊り、とんべえが一心不乱に太鼓をたたいておるのじゃった。魚売が村人に尋ねると、赤鯛神社のお宮開きの祭りじゃという。さらに、この祭りが始まった経緯を聞き、魚売は驚いた。
今更、あの赤鯛は実は儂の魚で……と、真相をぶちまける訳にもいかず、魚売は脂汗を流して立ちつくしておった。そうして魚売は慌てて海の村へと帰っていったが、ふと「儂は、山の生き物のためには良い事をしたのかもしれん。」と思ったそうな。
魚売が思ったとおり、それから何年かして、この村の辺りでは、また山のあちこちで兎や生き物の姿を見かけるようになったということじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-1-2 21:31)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 市原麟一郎(未来社刊)より |
出典詳細 | 土佐の民話 第二集(日本の民話54),市原麟一郎,未来社,1974年08月30日,原題「さかなの神様」,採録地「幡多郡」,話者「長崎くま」 |
場所について | 高知県幡多郡 |
このお話の評価 | ![]() |
⇒ 全スレッド一覧