放送回 | No.1332(0844-B) |
放送日 | 1992年05月23日(平成04年05月23日) |
出典 | 三重のむかし話(日本標準刊)より |
クレジット | 演出:小熊公晴 文芸:沖島勲 美術:阿部幸次 作画:新田敏夫 |
ナレーション | 市原悦子 |
昔、山の中に小さな村があり、畑が少ないこの村では耕す土地を少しでも広げようと村人達が毎日努力していた。しかし山の荒れ地を一から切り開く事に村人達はいつしか嫌気が差し、気も荒み働く気力さえ失っていた。
ある日の事、一人のみすぼらしい姿をした坊さまが村人の茂助の家を訪ね、破れた袖を直すため針と糸を貸してくれるようお願いした。ところが心が荒んでいた茂助は坊さまを追い返し、つい口から出任せで、「針が欲しけりゃ裏山に捨てたよき(手斧)を研いで針を作ってみろ。」と言ってしまう。
次の日、茂助はあの坊さまが村中の家々を回り追い返された後、裏山の一本杉の下でよきを研いでいる事を村人達から聞いた。まさかと思い茂助が裏山の一本杉まで行ってみると昨日の茂助の言葉を真に受けてか、坊さまは針を作ろうと茂助の捨てたよきを必死に研いでいたのである。
坊さまのあまりにも真剣な姿に恐れをなした茂助は逃げるように山を去り、自分の言った事を後悔するようになったが、坊さまは昼夜を問わず来る日も来る日も一本杉の洞の中でひたすら一心によきを研ぎ続け、まもなく山の村は深い雪に閉ざされていった。
やがて春の日が射す頃になり、坊さまを心配した茂助が村人達と共に裏山の一本杉に向かうと既に坊さまの姿はなく、そこには袖の縫い付けられた坊さまの衣が残されていた。そして袖には小さな針が刺してあり、これを見た茂助は自分達が荒れ地にさじを投げている間に、坊さまは本当によきから針を作り上げたのだと強く心を打たれた。
それから茂助と村人達は諦めていた山の荒れ地をまた切り開き始め、田畑が増えていくにつれ貧しかった村は少しづつ豊かに なっていった。そうしてあの不思議な坊さまの残した針と衣を祀り、そこに地蔵様を建てた。その後この地蔵様は誰言うとなくよきを研いで針を作った事から、 「よきとぎ地蔵」と呼ばれるようになったという。
(投稿者: お伽切草 投稿日時 2013-8-24 16:36)
地図:伊賀市千貝のよぎとぎ地蔵 |