昔、伊豆の河津川に得体のしれない化け物が棲んでいる噂がありました。ある人は川の主、またある人は河童だろうと言いましたが、誰ひとりとして姿を見た者はいませんでした。
ある年のこと、川沿いの谷津の棚田は、一日中田植えで賑わっていました。このあたり一帯は栖足寺(せいそくじ)の田んぼ、でこの日は寺の田植えでした。
村人たちは、一日無事に働き終えて川岸で鋤や鍬を洗い、馬の身体を洗っていましたが、馬が突然暴れだしました。村人たちが何事かと駆けつけてみると、馬の尻尾に河童がぶら下がっていました。
村人たちは河童を生け捕りにし、「河童を殺そうか、打ち叩いてやろうか」と話し合っているところへ、栖足寺の和尚と小僧がやってきました。和尚は「わしに免じて殺生なことはやめてほしい」と言い、河童を逃がしてあげました。
その夜、和尚が眠っていると、あの河童がやってきました。「和尚さんのお言葉通り、遠くの地へ参ります。つきましては、このカメ(瓶)を大切にしてください」と、カメを和尚さんに渡して、どこかへ去っていきました。
不思議なことに、このカメからは水が湧き出るような音が聞こえました。この水の音に聞き入った和尚は、すっかり気持ちが良くなり、その晩はぐっすり眠ることが出来ました。朝になって目が覚めた時は生き返ったかのように、満ち足りた清々しい気持ちでした。
不思議なかっぱのかめの話は村中に広がり、多くの村人がこのカメの音に聞き入りました。この音を聞くと、悪意は霧のように薄れ、村人たちの心は清々しく晴れていきました。また河津川に出水がある時には、恐ろしい水の唸りが聞こえたそうです。おかげで村人たちは洪水から身を守ることが出来ました。
和尚は、かっぱのかめを寺の宝として大切にするよう言い伝え、今も栖足寺に大切に祀られているそうです。
(投稿者: Kotono Rena 投稿日時 2013-07-11 20:31)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 岸なみ(未来社刊)より |
出典詳細 | 伊豆の民話(日本の民話04),岸なみ,未来社,1957年11月25日,原題「かっぱのかめ」,採録地「谷津」 |
場所について | 栖足寺(せいそくじ) |
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