昔々、信州は安曇野の馬羅尾山(ばらおさん)にいたずら好きの天狗がいた。何か面白いことはないかと、今日も安曇平を見下ろしていると、田植えが終わったあぜ道を庄屋の甚兵衛(じんべえ)さんが歩いて来る。
甚兵衛さんは、ぼた餅を神明様にお供えするために村の神明社に向かっていたのだ。天狗はちょうどいいカモが来たと思い、持っている羽うちわを扇ぎ大風を起こした。すると、甚兵衛さんは大風に吹き飛ばされて、遠くの山まで飛んでいってしまった。
一方、そのころ神明様は、ぼた餅が来るのを首を長くして待っていた。夜になり、ようやくお社にボロボロになった甚兵衛さんがやって来る。天狗に飛ばされたせいで、重箱の中のぼた餅はぐちゃぐちゃ。おまけに、村人がせっかく植えた苗も大風で滅茶苦茶にされてしまったのだ。これを聞いて、さすがの神明様も堪忍袋の緒が切れた。かぶろ様を呼んで、天狗を懲らしめるように命じた。
かぶろ様は神明様のお使いで、体は小柄であったが大変な力持ちで、また知恵者であったそうだ。かぶろ様は馬羅尾山にいる天狗に向かって、神明様に代わって懲らしめに来た旨を大声で言った。そして、かぶろ様は天狗に知恵比べを挑んだ。
知恵比べでは、まず天狗からかぶろ様に謎かけをした。天狗は言う「天には天の川があるが、同じく天にある3つの廊下とは何か?」
かぶろ様は少し考えて答えた。「わかったぞ。それは、降ろうか、照ろうか、雲ろうかだ!(フろうか、テろうか、クモろうか)」
次はかぶろ様が天狗に謎かけをする。「時には空気、時には雨、時には石の如し。何を以っても切ることは出来ないが、時にはのこぎりで切ることが出来る。これは何か?」天狗はかぶろ様のこの謎かけに答えることが出来なかった。
次は力比べの綱引きということで、かぶろ様は村人に太い綱を用意させた。そして、この綱引きで天狗が負けたら、馬羅尾山から出て行くように命じた。天狗は、こんな小柄な男に自分が負けるはずがないと高をくくっていたので、この勝負を受けた。
天狗は里に、かぶろ様は山にそれぞれ陣を取り、二人とも渾身の力を込めて綱を引いた。さすがに天狗もかぶろ様も力があるので、なかなか勝負がつかない。しかし、天狗は里側に陣取っていたので、田んぼの中で足場が悪く足を滑らせ、とうとう綱を放してしまった。
こうして、知恵比べでも力比べでもかぶろ様に負けた天狗は、田んぼの苗を元通りに直し、馬羅尾山から出て行った。最後に天狗は、かぶろ様に謎かけの答えを聞いた。かぶろ様は答える。「時には空気、時には雨、・・・(省略)」「それは水じゃよ!!」
それ以降も村では、田植えが終わる頃になると馬羅尾山から強い風が吹き下りることがあった。それは、天狗がかぶろ様に負けた悔しさで、こっそり馬羅尾山に戻って大風を起こしているのだろうと村人は噂しあった。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-9-1 9:04 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 長野県 |
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場所について | 長野県大町市常盤の馬羅尾山 |
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