むかしむかし、ある所に貧しい村があった。その村は豊作知らずの枯れ村(食い詰めた者がよその土地に逃げ出して人が減った村)で、それだけに、残った家には腹の据わった賢い者が多かったそうな。
そんな村に、これまた貧しい婆さま(ばさま)が一人で暮らしておった。婆さまは、何日も飯を食うとらん時でも、道を歩く時はしゃんと背筋を伸ばして歩くのが常じゃった。村人達も同じように貧しい暮らしをしておったが、そんな婆さまをとても心配しておった。
ある日、婆さまの家に親戚の兄さま(あんさま)がやってきて「卵を産まんようになった穀潰しじゃけん、つぶして食うてくれや。」と、雌鶏を置いて帰っていった。婆さまは「つぶして食うより、なんとか卵を産ませてそれを食おう。」と思い、雌鶏を飼うことにした。
婆さまは、納屋に巣を作ってやり、草の実や菜っ葉の切れ端をたくさん集めて雌鶏に食わせた。次の日の朝、雌鶏はでっかい卵を一つ産んでおった。婆さまは喜んで、卵を汁に入れて食べた。それは、命が蘇るようななんとも美味しい卵じゃった。
それから三日間、雌鶏は毎日卵を産んだ。ところが四日目の朝、巣から卵はなくなっており、納屋の周りにはキツネの足跡が一杯ついておった。「普通なら鶏を噛み殺して持っていくはずじゃ。卵だけ盗むキツネとは、おかしなことじゃ。」と、婆さまは納屋に隠れて見とどけることにした。そして、その日の夜、現れたキツネはやっぱり雌鶏には目もくれず、卵だけを盗んで食べておった。
それを見た婆さまは、村人達に「鶏を食うてしまえば一時は腹が一杯になるが、それまでじゃ。じゃが、卵を産ませてそれを取って食べれば、末長く力をつけることができる。あのキツネはおらと同じことを考えたじゃ。」と、笑いながら語った。
暮らしが厳しいと知恵がつく。
それは人間だけではなく、キツネもまた、生き延びるために知恵をつけておったのじゃった。それからというもの、婆さまとキツネは一日おきにかわりばんこで卵を食い、元気をつけたそうじゃ。そうして、雌鶏も一生懸命餌を食って、毎日卵を産み続けたということじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2012-1-8 0:06 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 青森県 |
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