昔、ある人里はなれたところに、変り者で節約家の佐平(さへい)という男が住んでいました。
佐平さんは、年中裸ですごし、夜は明かりもつけずに節約し、字を書くための道具を買い揃えました。佐平さんは、書道が趣味で、毎日の暮らしを節約して紙や墨を購入していました。
ある日、知り合いの宇平(うへい)さんが、佐平さんの節約ぶりを見に訪れました。宇平さんが「年中裸で過ごしているが寒くないのか?」と訊ねると、佐平さんは天井に細い縄で吊るした大岩を指さして「この岩がいつ落ちてくるかと考えると、冷や汗が出てきて暑くてたまらない」と、答えました。
やがて、宇平さんは屁がしたくなり、はばかり(トイレ)を借りようとしました。しかし佐平さんは、その屁を紙ぶくろに入れて「これは肥やしの息だから」と言って、畑の大根にしっかり嗅がせました。
宇平さんは、佐平さんの驚きの節約術をあれこれ聞いているうちに、あたりはすっかり暗くなりました。宇平さんは、そろそろ家にかえろうと玄関の草履をさがしましたが、暗くて何も見えませんでした。そこで佐平さんは、灯りの代わりにと、棒で自分の頭をしたたかに叩き、目から火を出しました。
宇平さんは、佐平さんのあまりの節約ぶりに、逃げるようにして家に帰りました。その後の佐平さんは、あいかわらず節約しながら随分と長生きしたそうです。
(紅子 2013-10-13 1:10)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 土橋里木(未来社刊)より |
出典詳細 | 甲斐の民話(日本の民話17),土橋里木,未来社,1959年03月31日,原題「藁のおくりもの」,採録地「西八代郡上九一色村」,話者「土橋喜一」 |
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