北海道の大雪山系の山々には、獣や人間を襲って食べる山男が住むと言う噂があった。
ある年、大雪山の麓・十勝川の畔に住む一人の年老いた猟師が、十勝岳へ猟に出かけた。なかなか獲物を得る事が出来ずに山の中を彷徨い歩く内、川縁にカワウソの足跡を見つけた猟師は喜び勇んでその足跡を追った。
ところが、いつの間にか猟師は深い森の中に迷い込んでおり、しかもカワウソの足跡を後ろ向きになりながら追っていたのだった。化かされたと思った猟師が怒って悪態をつくと、それとほぼ同時に猟師の目の前に巨大な山男が姿を現した。
驚いた猟師は逃げ出したが、山男は何処までも追って来た。遂に崖の縁にまで追い詰められた猟師は「喰わないでくれ、俺の持っている物と言えばこれ位だ」と言いながら煙管にたばこを詰めて火をつけ、山男に手渡した。山男は煙管を受け取ると旨そうにたばこを噴かしていたが、やがて満足したのかそのまま姿を消してしまった。
命拾いしたと猟師が逃げ出し、森の中で出会った猟師仲間に今までの話をして聞かせて居ると、さっきの山男が再び姿を現わした。そして驚く猟師の目の前に大きな鉞(まさかり)を放り、また森の中に消えてしまった。
「たばこの礼にくれたのだな」と思った猟師はその鉞を持ち帰った。それからと言うもの猟師は運が良くなって、やる事為す事巧く行くようになった。猟師の話を聞いた人々は、それ以来十勝岳に登る時は必ずたばこを持って行くようになったのだと。
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2012-12-9 23:17 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 北海道の伝説(日本標準刊)より |
場所について | 十勝連峰の東側(地図は適当) |
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