情報の掲載されているページはこちらです。(本文に戻る)byまんが日本昔ばなし〜データベース〜[印刷用画面]

伊豆いこう(いずいこう)

放送回No.1138(0718-B)
放送日1989年09月30日(平成01年09月30日)
出典岸なみ(未来社刊)より
クレジット演出:辻伸一 文芸:沖島勲 美術:青木稔 作画:辻伸一
ナレーション市原悦子

あらすじ

むかし、伊豆は宇佐美のある神社に、それはそれは大きな楠(くすのき)があった。

ところがある年、戦船(いくさぶね)が作られるとき、この大きな楠は伐採され、船を作るときの材料にされた。船は安宅船(あたけぶね)という大型の戦船で、左右に25丁づつ、50丁の櫓(ろ)があり、その櫓には楠の芯の一番堅い部分が使われていた。この船には、50人の櫓を漕ぐ男達と、上のやぐらにはお侍が50人が乗っていた。

あるとき、土佐の室戸での逗留がひどく長引いたことがあった。それで、乗り込みの者はみな陸に上がっていた。

ところで、この船には伊豆出身の十吉(じゅうきち)という漕ぎ手がおり、この時、船の中で一人留守を守っていた。すると、「十吉、十吉・・・」と、どこからともなく声が聞こえてきた。不気味な声は言う。「十吉、伊豆いこう、伊豆いこう・・・」

十吉は翌朝、この事を船長(ふなおさ)に話してみた。船長は、にわかには信じられないようだったが、とにかく今夜は二人で船に残ってみることにした。

その夜、二人が耳をすませていると、やがて潮が船端を打つ音が激しくなってきて、船がきしむ音を立て始めた。そしてやはり、「十吉、伊豆いこう、伊豆いこう・・・」と聞こえてくるのだった。

それからしばらくして、船は品川に向かうことになり、室戸を出発した。ところがその船足の早いこと早いこと。風もさほど強くないし、漕ぎ手たちも特別力を入れているわけでもないのに、たちまちのうちに船は伊豆の宇佐美沖にさしかかった。すると、どうしたことか急に船足は遅くなり、とうとう船は停まってしまった。

上のやぐらでは、この様子を見て、船の大将も訝しく思っていた。そこで船長は大将に進言した。

「実は、あそこにおります伊豆の十吉と申す者が、夜な夜な船の声を聞いております。伊豆の生まれの十吉に、同じく伊豆で生まれたこの船が自分の思いを伝えたのでしょう。なんとかこの船の心を慰めなければ、この伊豆の海から先に進むことができないと思われます。」

そこで大将は十吉に尋ねた。「十吉とやら。その方なにかいい手立てはないか?」

「はい。オラあ、この船に使われている木が、元の宇佐美の神社の境内に戻りたがっているんじゃねえかと。この上はぜひとも木を戻して、木霊をお慰めしないと。」

そして十吉は、楠の芯の部分で作った櫓を一本手に取ると、小舟で宇佐美に渡り、神社の楠の切り株に挿し込んで、深くお参りをした。

そしてそれからは船が「伊豆いこう」と言うことはなくなったものの、不思議なことに、いつも伊豆の海に向かうときには、驚くほど船足が速くなったということだ。

宇佐美の神社の大きな楠の切り株は、十吉が櫓を挿したところからひこばえが生えて、ずんずん大きくなり、今では切られる前の大楠によく似た大木になっている。
 

(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-9-10 9:06 )


参考URL(1):http://ameblo.jp/izusketch/entry-10763020044.html
地図:春日神社

※このページは印刷用の画面です。情報の掲載されているページは、こちらです。(本文に戻る)