むかしむかし、あるところに甚平さんという男が住んでおりました。この辺りの村人はよくカワウソに化かされていましたが、力自慢の甚平さんは自分は絶対化かされないと豪語していました。
ある日甚平さんは、遠くの親戚の家へ法事で出かけました。そうしてすっかり夜も更けた頃、甚平さんはご馳走の詰まった重箱を下げて、暗い夜道を家へ帰ることにしました。
ところが、甚平さんの後ろから綺麗な女が歩いてくるのです。「これはきっとカワウソが女に化けて、重箱を狙っておるのに違いない。生け捕ってやろう。」と思った甚平さんは、用心しながら歩いて行きました。女はどこまでも甚平さんの後をついてきます。
しばらく行くと、前の方に提灯の明かりが見えました。それは、心配して迎えに来た甚平さんの女房でした。甚平さんは重箱を女房に渡し、先に帰らせました。
やがて女はどんどん近寄ってきて「足が痛いので手を引いて下さいませんか」と言います。甚平さんが女の手をとると、その手はとても柔らかく綺麗でしたが、袖口の奥を覗くとモジャモジャッと毛が生えているのでした。
そのうち女は「私を背負って下さいませんか。」と言いだしました。甚平さんは、よっしゃと女を背負いましたが、これがえらい重さでした。甚平さんは、逃してなるものかと重いのを我慢して歩き続け、やっとのことで家までたどり着きました。
甚平さんが背負っておったのはお地蔵さんでした。不思議がる女房を尻目に、甚平さんはお地蔵さんを縛り上げ「さっきの重箱はどうした?」と女房に聞きました。ところが女房は、重箱なんか知らん、迎えになんか行っとらんと言うのでした。
甚平さんが背負ってきたのはやっぱり本物のお地蔵さんでした。そして甚平さんを迎えに来た女房も実はカワウソだったのです。こうして絶対化かされないと思っていた甚平さんも、カワウソにまんまと化かされた。ということです。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2012-7-15 11:20)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 香川の伝説(日本標準刊)より |
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