奈良の山中、小井(こい)には親谷(おやんたに)という谷があり、そこにはひときわ大きい男滝(おんたき)と呼ばれる滝があった。
滝のそばには丸木橋が架かっていたが、大水で流されてしまったので村の男衆が新しい橋を架ける作業をはじめた。そこへ一人の旅の六部が通りかかり、山中渓谷の危険な足場も顧みず、橋を架ける男衆への感謝から念仏を唱えはじめた。
すると、六部の目に不思議な光景が見えた。それまで男衆が足場としている岩場と見えたのは実は龍の体であり、橋の丸太を運ぶ綱と見えていたのは龍の鬚(ひげ)だった。さらに、龍は足を滑らせ濁流に落ちた者を助け上げもした。
しかし、男衆はその龍には全く気がつく様子もないのである。六部は出来上がりつつある橋を渡ると滝を後にし、峠の茶屋に寄った。そして、そこのばあさまに先ほど目にした一部始終を話した。話を終えると六部は去り、今度は橋を架けていた男衆が一仕事終え茶屋まで戻ってきた。
今度はばあさまが六部の話を男衆にした。男衆はそんな龍は見なかったと不思議に思い、橋のある男滝へ取って返した。果たして、先ほど足場としていた岩場はなく、六部の話していたことが本当のであったと皆驚いた。
と、その瞬間、滝に龍の姿が現れ、男滝をゆっくりと昇って行った。 男衆は、この神々しい光景を見て思わず念仏を唱えるのだった。
(引用/龍学-dragonology-)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 奈良県 |
DVD情報 | DVD-BOX第9集(DVD第41巻) |
場所について | 奈良県吉野郡十津川村小井(親ノ谷) |
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