昔ある所に、兄弟の漁師が年老いた母親と3人で暮らしていた。
ある二十三夜の朝、兄弟は漁に出掛け魚を捕っていたが、急に空が曇り海は荒れ、兄弟の舟は沖へと流されてしまった。兄弟は小さな島に流れ着き、舟から降りて人家は無いかと島を歩いた。2人がしばらく歩くと丘の上に灯が見え、兄弟はその家の戸を叩いて一晩の宿を頼んだ。
一方その頃、帰らぬ息子を心配した母親は二十三夜の月に向かって2人の無事をお願いしていた。すると突然月が強く光り始め、母親が気がつくと月にお供えした2つのぼたもちが消えていた。
兄弟は家の中へ上がり座っていると、女性は「さぞお腹が空いたことでしょう」と言ってぼたもちを2つ差し出した。食べてみるとこれがすごく美味しく、また不思議なことに2つしか食べていないのにすっかり満腹になった。
そして女性は、ひとつの紙の包みを差し出し「これは魔よけの品です。もし困ったことがあったらこれを開いてお使いください」と言った。次の朝、兄弟が目を覚ますとそこは何も無い野原で、あの家も女性の姿も無かった。
兄弟は不思議に思ったが、とりあえず舟を置いた浜まで行ってみることにした。ところが兄弟が舟に着いてみると、舟は何か白い糸のようなものでぐるぐる巻きにされており、どんなにしてもびくともしなかった。
その白い糸は蜘蛛の糸のようで、昨日の女性がくれた包みを思い出し、その包みを開いてみた。するとそれは硫黄のかたまりで、見る間に燃え上がり舟をくるんだ白い糸を焼き尽くしてしまった。こうして兄弟は島から出ることができ、無事に家に帰り着くことが出来た。
息子の無事を喜んだ母親は、夕べぼたもちが消えたことを話した。すると兄弟も、昨日女性がくれたぼたもちの話をした。あの女性は二十三夜の神様の化身で、大蜘蛛から兄弟を守ってくれたのだと親子はその時始めて分かったのだった。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 新潟県 |
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