辰子姫物語
昔、院内(いんない)の里に辰子という一人の娘がいた。辰子は野山を駆け巡り、自然にはぐくまれて育ち、やがて美しい娘になった。しかしそんな辰子は、まだ自分の美しさに気づいていなかった。
ある秋の日、辰子が木の実を取りに山に入ると、茂みの中に鏡のように澄んだ泉を見つけた。辰子は泉の水でのどを潤すと、何気なく水面に目を落とした。辰子はこの時、初めて自分の姿を見て、その美しさに気がついたのだ。
それからというもの、自由奔放に野山を駆け回っていた以前の辰子は影を潜め、辰子はじっと物思いに沈むようになった。自...